研究課題/領域番号 |
18K05073
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中本 真晃 広島大学, 理学研究科, 准教授 (90334044)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 反芳香族性 / 高周期典型元素 / 励起芳香族性 / 速度論的安定化 / ジラジカル / 光異性化 |
研究実績の概要 |
高歪み炭素シグマ結合からなる正四面体分子のテトラヘドランおよび,その原子価異性体であるシクロブタジエンを研究対象とし,高歪み反芳香族分子における光や熱等の外部刺激によって誘起される分子変換のしくみに関して実験的および理論的研究を行なっている。ケイ素などの高周期典型元素からなる置換基のもつ優れた速度論的安定化効果を活用し、いわゆる「反応活性種」から「単離可能な分子」へと導き、安定になったからこそ可能になる化学へと展開させる。典型元素の特性が特異な分子構造と電子構造にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。高歪みシグマ電子系とパイ電子共役系とを融合させ、反芳香族分子を作り出す方法を確立し、「高歪みシグマ結合」「励起芳香族性」「non-ケクレ ジラジカル構造」をキーワードに研究を展開中である。シクロブタジエンの反芳香族性の回避をドライビングフォースとした開殻系分子へと展開していくことで、π共役拡張に関する新たな知見を得ることを目指す。 ここまでの研究において,テトラヘドランの光反応によるシクロブタジエンの定量的な合成法を確立した。この反応では光励起による電子移動過程を含むことが実験的な事実より導かれ、様々なシクロブタジエン誘導体の優れた合成方法になる。得られるシクロブタジエンは高反応性π電子系分子であり、ケイ素置換基によって速度論的に安定化されているために、不活性ガス雰囲気下で単離することができる。フェニレン架橋体は「non-ケクレ ジラジカル構造」となることが理論計算から予想され、温度可変ESR測定を行い、基底多重度や 一重項ー三重項エネルギー差に及ぼす分子構造との関連について調査研究を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年1月より所属研究機関を変更した。本研究課題は2018年4月から開始したので,3ヶ月間の準備期間はあったものの,実験設備等の環境の調整に時間を要した。これまでに確立している合成法を改めて新しい環境において見直し,条件を最適化し前駆体の合成に関して一定の進展が見られたものの,当初予定していたよりはやや遅れたと言わざるを得ない。 2018年度は新たな高歪み結合からなる分子をターゲットにして分子設計し、合成に取り組んだ。また合成した前駆体の光による物質変換および高歪み電子系の物性解明を目指して、現在までに以下の実験を中心に成果を得ている。(1) π共役系へと導入したテトラヘドランからシクロブタジエンへの光誘起原子価異性化。(2) 置換シクロブタジエンの合成、分子構造および電子状態の理論的かつ実験的な研究。 置換シクロブタジエンの電子状態について,イスラエル工科大学のApeloig教授との共同研究を行い,励起三重項種のシクロブタジエン観測に初めて成功した。原子価異性体となるテトラへドランの系では,系統的な置換基効果の検証を行うため,種々のパイ共役系拡張した前駆体の合成に注力した。今後はより詳細な電子物性を明らかにするために光異性化および熱異性化を検討する必要がある。ヘテロ原子(リンやホウ素置換基)を導入したテトラへドラン誘導体の合成においても進展があり、高歪みシグマ結合に及ぼすヘテロ原子の影響に関しての知見も得られている。光エネルギーを使って、効率よく反芳香族分子を構築する反応についてさらに研究を先鋭化していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
すでにいくつかの新規誘導体を合成しており,現在は当初の目的である「テトラへドランの光異性化によるシクロブタジエンの合成」に取り組んでいる。単離には至っていないものの,各種分光手法による観測および捕捉実験により,当該目的化合物の生成を示す実験的証拠が得られている。これからは単離構造解析に向けて条件検討を進め,高歪みシグマ結合と反芳香族性および励起芳香族性の関連に関して,実験的に明らかにしていく。 歪んだσ結合と隣接するπ系との軌道相互作用が、テトラへドランの性質へ与える影響や、シクロブタジエンへの原子価異性化に及ぼす置換基効果を明らかにする。ケイ素置換基を用いると活性化障壁は大きく上昇し、300 °Cまで安定であるが、アリール基の導入によって熱異性化反応は加速されるのか、また異性化のメカニズムは理論化学の予想と一致するのかを検討する。励起状態の中間体にはビシクロ-1,3-ビラジカル構造が推定されており、その構造や性質にも興味が持たれるため、計算化学や物理化学の専門家との共同研究を行う。反応解明のキーワードは励起三重項,あるいは励起芳香族性である。そこで,前年度までに合成したシクロブタジエン誘導体について,EPRやSQUIDを用いてスピン多重度の決定を共同研究にして遂行することを計画している。シクロブタジエン骨格を維持したままでの高度に制御された分子変換は困難だと予想されるが,テトラヘドラン前駆体を利用することで様々なシクロブタジエン誘導体を作り出すことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりも物品費にかかる経費が見積もりより少なくなったため,次年度使用額が生じた。しかし,翌年度分として請求する助成金の合計は,当該年度所要額のうちおよそ7.4% に過ぎないので,計画に大きな変更はない。翌年度分に繰り越された助成金は,引き続き化学合成に必要な試薬などの購入費に充てる。
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