研究課題/領域番号 |
18K05076
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小林 長夫 信州大学, 繊維学部, 特任教授 (60124575)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 4nパイ系 / 合成 / 反芳香族 / 非芳香族 / スペクトル / 分子軌道 / 磁気円偏光2色性 |
研究実績の概要 |
今迄報告された色素は殆どが所謂(4n+2)パイ系の化合物であった。動物中の血色素、植物中の葉緑素など生態系で関係するポルフィリン類も99%以上は(4n+2)パイ系に属する。しかしここ10年ほど4nパイ系への関心が高まり、論文としては4nパイ系の化合物が報告されるようになってきた。しかし、合成が難しく例が少なかったためその性質に関しては未だ充分に解析されておらず、現在世界で合成と解析の研究者が共同で4nパイ系化合物の化学を発展させている。今回の研究では分光学的な面から解析が比較的し易いポルフィリン類縁体であるフタロシアニン類に的を絞り、4nパイ系の化合物をデザイン・合成し、解析した。サブフタロシアニンと呼ばれる中心にボロンを含む芳香環は過去30年近く研究されて来たが全て(4n+2)パイ系であった。パイ系骨格を理論的に4nパイ系になるようデザインし、実際合成し、各種測定結果を解析して実際に4nパイ系であることを証明した。吸収スペクトル、NMRデータの化学シフト値は通常の芳香族化合物としては全く説明がつかず、環電流は(4n+2)パイ系芳香族のものとは反対であった。吸収スペクトルの詳しい解析は磁気円偏光2色性スペクトルも用い、更に量子化学的計算も参考にした。結果は1流の国際誌に発表された。また2019年度5月に開催される国際学会で発表される。 また拡張ポルフィリン系の化合物として、プロトン添加時と非添加時で共に4nパイ形になる化合物を合成し、解析を進めている。例えば4nパイ系の化合物の吸収スペクトルは6つの軌道で説明されることが理論家により提唱されているが、これは分子の形、サイズにより、当てはまらない事が最近明らかになって来ており、我々の系でも議論する予定である。現在は(4n+2)パイ系と4nパイ系の中間に位置する化合物も合成し解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験は概ね良好に進んでいる。現在4種の4nパイ系の化合物合成に取り組んでおり、2つについては分光学的データを集めている。合成の段階で思ったより2倍の時間がかかったが、毎日データを集め、解析するのが楽しい段階で、2019年度中には2-3報の論文にまとめる事が可能と思う。また国内外の学会で発表予定である。 ただ解析の段階で装置がなくて測定できていない物がある。それは液体窒素温度でのEPR測定である。30年位前は多くの大学・研究所に当たり前に装置があったが、今は殆ど専門家がおらず、室温下の測定は出来ても液体窒素温度で測定可能な所がみつかっていない。液体窒素温度での測定なくして必要な情報が得られず、今後もEPR測定必要な化合物が合成できる度に問題となりそうである。磁化率の装置は自分の所になくとも専門家がおり、サンプルを送り共同研究とする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
この研究はあと2年継続の予定である。中心に金属イオンをひとつ含む単核の4nパイ系化合物は2019年度中に最低2つの報告に纏めたい。近赤外領域の分光法など自分の所にない装置を用いる測定は理研に数回出張してデータを集める。液体状と個体状の磁化率の温度変化測定は外部の専門家と共同研究するため、サンプルの再度合成を行う。液体窒素温度でのEPR測定が出来ずに困っているが、これは測定可能な場所をなんとか探す。 中心に遷移金属を3つ含有する4nパイ系も合成に着手しており、2019年度中に何とか目処をつけたいと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
通常当該年度の予算は4月から翌年の3月まで使う。実験計画もその予定でたてたが、2018年度は外国からの博士課程学生が10月から配属になり、その実験が遅れた分の予算(約56000円)が浮いた形となった。実験が順調に進んでいるため、2019年度の旅費等に使用する。また本大学にない装置を使う予定があり、その為に学生か小職が和光市の理研、および名古屋大学に測定に出かける旅費(もしくは使用料)等に使用する。
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