研究課題
本研究では2つの目標を掲げた。一つは特異な吸収スペクトルを有するフタロシアニン(Pc)類縁体である。Pcからベンゼン環を4つ除き、メソ位の窒素を炭素に替えてフェニル基を4つ導入し、各々のフェニル基にはオルト、メタ位に長さの異なるアルキル鎖を導入した。これらの化合物は室温で液体であり、吸収スペクトルは殆ど変化ないのに磁気円偏光2色性は大きく変化した。この事から、アルキル鎖の長さ、数、位置の変化により、液体としての化合物の構造の歪みが微妙に変化し、HOMOとHOMO+1のエネルギー差とLUMOとLUMO+1のエネルギー鎖の相対的大きさが変わる系だと結論づけられた。2番目の目標は生体に応用可能な波長域に吸収を有し、高い蛍光収率を有するPc類の調製であった。Pcのメソ位を炭素にしてテトラベンゾポルフィリン(TBP)とし、中心に無金属、亜鉛、電子吸引性が非常に大きいリンの5価を挿入した。リンの場合HOMO、LUMO共に安定化するが特にLUMOのそれが大きく、HOMO-LUMO間エネルギーが小さくなり、最長波長バンドは赤方の700nm以上に移動し、光が筋肉・皮膚を透過するため生体に応用できる理想的化合物になった。また全ての錯体は蛍光を発した。無金属、亜鉛体も含め、合成した全てのTBPの最長波長バンドは690-760nmに現れた。比較のためにTBPからベンゼンが4つ取れたポルフィリンのリン錯体も合成したが、これらの錯体の最長波長は600-650nmで強度も弱く生態系への応用には不十分であった。生態系への応用を目的としてモルフォリンを修飾した水溶性H2-およびZnPcを合成し、物理化学的、光化学的抗微生物化学療法活性を調べた。全てのPcは700-800に強い吸収を示し,1重項酸素収率は20-68%であった。3種のバクテリアに対して化学療法活性を調べたところ、1時間の光照射で全滅した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定したうちの80-85%程度の進捗状態と思われる。上記研究実績の概要の中で、2番目のTBP誘導体に関する研究に当初予定していたより多くのエネルギー、時間を要した。2つの研究室の合作であり、全てのデータを統一化して纏め整理するのが困難であったのが理由である。4nパイ系の研究は進んでいるが、難しい系が多く、まとめと投稿準備に時間がかかっている。それは理論家が理論を構築するのに考える小さな理想形分子と違い、実際は分子量の大きい巨大分子を扱うからである。装置の問題もある。低温度でのESR測定を行いたいが、ESR装置を持っている所が少なく、更にシグナルを出すのに必要な低温実験を行える所が極端に少ない。それらの装置を所有している所に共同研究をお願いし、サンプルを送っても、自分の所で測定するサンプルも殆どないためか、腰が重く、半年が経っても測定に至っていない。
次年度は最終年度でもあり、幾分遅れている4nパイ系の分子の合成、測定、解析、まとめに力をいれる。次年度中に全てが印刷に回るかわからないが2-3報にまとめたい(2報分の測定はほぼ終わっている)。また4nパイ系反芳香属性化合物を層状に2層積み重ね、芳香属性を示す様になるか検討する。それは大環状化合物で、最外殻は芳香属性、最内核は反芳香属性を示す化合物が合成できたからである。最終年度であることから外部に測定を依頼しているESR,磁化率などのデータの収集を進める。また2019年度中にコロナウイルスの為に開催されなかった学会などで、次年度中に開催されるものが有れば、そこで成果の発表も行う。
コロナウイルスの発生により、2020年3月に予定されていた日本化学会が開催されなくなり、その旅費分の45625円が令和2年分に回ることとなった。実験試薬、消耗品、学会発表の旅費等に使用予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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