研究課題
「分光学的特徴を有する機能性フタロシアニン類の創出」が研究題であった。2021年中に14報の論文を出すことができた。化合物群では3つに分類できる。フタロシアニン(Pc)は4つのイソインドール環からなるが、イソインドールを3つ、チアジアゾール環3つからなる大型のPc誘導体を作り、中心にコバルトやニッケルなどを3つ含有できる骨格であることを証明した。優秀論文に選ばれ、裏表紙に採用された。別の論文ではPcの環電流が、Pcに縮合する芳香環の芳香属性により制御できる事を、実験と理論で示した。Pcは中心金属を大きめな希土類元素を用いることにより層状に2層積み上げることができる。長鎖を置換基として結合した層状Pc2量体が、液晶となる事を示した。またPc誘導体とポルフィリンを層状に重ねた化合物群を合成・特製化し、英国科学会誌に報告した。第2のグループに属するものはピロールの大環状化合物である。これらはイソインドールからベンゼン環を除いた化合物を構成単位とするものであり、構成単位が6個からなる化合物は、中心に金属の代わりにベンゼン環を含んでいる。これらの1群の化合物は反芳香属性を示すスペクトルを示し、2電子酸化された時には近赤外領域に幅広い大きな吸収を示す。これらは中心ベンゼン環から骨格周辺への電荷移動帯と帰属される、非常に珍しい系である事が示された。またピロール環が9つ環状に結合した化合物は、H2SO4やH2SiF6を鋳型として合成され、構造がX線結晶解析、種々の分光法により解析され、1743nmという長波長の近赤外領域に大きな吸収を示す事が示され、単量体芳香族化合物として非常に特徴的である事が示された。合成・報告した第3の化合物群に属するのは、サブポルフィリンと呼ばれる、ピロールが3つで環状になった分子である。これらは平面構造はとりえず、円錐或いはお椀型構造を有する。2報の報告に纏めた。
2: おおむね順調に進展している
この研究は2021年3月で終了のところ、1年延長させて頂いた。コロナ禍にもかかわらず研究は概ね順調に進んでおり、2021年の年号のついた論文は14報ある。機器測定が必要な化合物があるが、近くに装置がなく、遠くの専門家にお願いしたものがあった。纏めは今年度になる予定である。合成に於いては、当初予定して居た化合物が合成できない場合が出てきている。出発原料が、企業のカタログには載っている物の、注文しても届かない。外国製品の場合は、コロナ禍で工場が稼働して居ないことが予想される。この研究の最終年度を2022年度まで延長させて頂いたので、届かない原料をいつまでも待つのでなく、自作するか、合成化合物を別なのにするか検討している。
現在までの進捗状況で記述した様に、原料の入荷が遅れているものがある。その原料の合成には5段階の反応が必要なため、現在自分達でその原料を合成するか検討中である。また、今までの研究で、新たな化合物の創成に関してもアイデアが出てきたので、時間との兼ね合いでどこまで出来るか検討している。2年目の科研費の延長が認められたが、予算が少ないので、他の予算も足して実験を行う必要があり、実験は2022年末程度までを予定している。本年度は3報程度の成果を出したい。
コロナ下で思う様に実験が進まない年度があり、本科研費は2021年3月末で終了予定であったが、1年の延長をお願いし認められた。研究途中の2021年10月頃、事務から更に1年延長可能という連絡が入った。小職は特任教授を2023年3月で終了予定だったため、その後出来るだけ節約し、最後の1年に繰り越す様努めた。コロナで薬品の生産が滞っているせいか知らないが、試薬のカタログに載っていても、在庫がなかったり、製品が届かなかったこともあり、その結果実験の進行が幾分遅れ、幾許かの金額(約15万円)を2022年度まで繰り越す事ができ、申請して認められた。届かない試薬を原料から自分で合成すると5段階の工程があり、本研究の最終目標を達成するために全力を挙げる所存である。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 14件)
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