研究実績の概要 |
本年度は、π拡張型キラル化合物について、らせん軸方向へπ共役系を伸ばした誘導体の合成に成功した。 ヘキサベンゾコロネンをらせん状に展開した構造を持つπ拡張型[9]ヘリセン(オクタペリオクタベンゾ[9]ヘリセン, C62H30)は、1000 nmを超える長波長側に吸収端を示した。対応するπ拡張型[7]ヘリセン誘導体は約800 nmに吸収端を示したことから、分子構造全体で均一に拡張したらせん構造の分子設計は、らせん軸に沿った分子長の増加に伴いHOMO-LUMOギャップが顕著に狭くなる特徴を有することが明らかとなった。単結晶X線構造解析から、π拡張型[9]ヘリセンはらせん構造のスタック方向と1つの結晶軸がほぼ一致しており、単結晶構造内でP体とM体のエナンチオマーが交互に積層したカラムナー構造を形成することが分かった。 ベンゼン環が正六角形状に縮環したケクレンをらせん状に展開したπ伸長型ヘリセン誘導体については、17個のベンゼン環縮環した誘導体 (helicene[6,(6^2,6^1)_7,6^2,6], C70H38) の合成とそのX線単結晶構造解析に成功した。興味深いことに、得られたπ伸長型ヘリセンは単結晶構造中で同一のエナンチオマーが1つの結晶軸に沿って積層した「エナンチオマー分離型」のカラムナー構造を有することが明らかとなった。 以上のように、π拡張型らせん状構造についてらせん軸方向に分子サイズを伸長させることによって、分光特性の顕著な長波長化やらせん状分子からなる様々なパッキング構造の実現が達成できることを示した。
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