本研究では、ねじれX字型の分子インダンジオン二量体が構築する多様な分子包接結晶と、その構造変化に基づく機能化について研究を展開した。まず、置換基部分をピリジンからピリミジンに変換することによって、取り込めるゲスト分子の多様性を大幅に向上することに成功した。またゲスト分子の持つ官能基に基づいた包接構造のコントロールにも成功し、これにより酸を含む高極性分子の取り込みも可能となった。これらの包接結晶は共に一次元チャンネルを形成し、その内部にゲスト分子が一次元的に配列するため、今後プロトン伝導性材料や誘電材料への応用を目指した各種物性測定を行う予定である。また、既存のピリジン体に低極性アセン類を導入することも試みており、アントラセン導入体については発光色の明確な変化 (強い青色)が観測された。さらに、インダンジオン骨格そのものの構造を拡張したベンゾ縮環体の合成にも成功した。これにより、ピリミジン導入体が示す包接結晶と同様のパッキング様式を保ちながら、細孔サイズの拡張にも成功した。これにより、今後より多様な分子包接が可能になる。 ゲスト分子の脱離による結晶構造への影響についても多くの検討を行った。その結果、ピリジン置換体ではゲスト分子として長鎖アルカンを導入した場合、鎖長が長くなるほど脱離にかかる温度が高くなることがわかった。これは細孔内部とゲスト分子間の相互作用の大きさの変化によるものと考えられる。特にオクタデカンをゲストとした場合は、その沸点よりも100 K以上低い温度でゲストの脱離が生じた。また、ゲストを含まないCLOSE構造については加熱により190度付近で骨格中心のC-C結合が切断することによるラジカル種の発生と結合長の明確な伸長が観測された。
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