研究実績の概要 |
次世代炭素材料として有望であるが合成戦略が限られる多環芳香族炭化水素に対し、それらと同等の電子系にいたる合成法の易化・多様化を狙うべく、本研究では、多環芳香族炭化水素に見られるπ電子豊富な二次元π共役系の再現を、共鳴や他の相互作用によって担わせる。原子・イオン・電子の移動によって連結させることで、芳香族性に類似した安定化の寄与を生み出させ、二次元的な電子の非局在化が効果的に起こるような化合物体系の確立を目指す。 前年度、トリアジンと活性メチレン化合物の三縮合体からなる疑似芳香族性分子の部分欠損系を合成し、非局在化の変化を検討しようとしたが、再現性に乏しく達成できなかった。そこで、既存の疑似芳香族性分子に部分構造を導入することで、その摂動を観察することとした。シクロヘキサンジオン三縮合体に、カルボニルα-修飾反応を利用して種々の置換基導入を検討したが、目的とする化合物は得られなかった。理由としては、疑似芳香族性骨格を形成することでカルボニル基としての反応性が変化していることだと期待している。 一方、トリピリンも分子内多重水素結合を内包した骨格であることが認識された。これは分子の高次構造の安定性や電子の非局在化にも寄与していると考えられる。meso-アリールヘキサフィリンの5,20-位置換基の立体障害を小さくするとtype-Iコンフォメーション(ダンベル型)を採るが、これらの電子求引性を大きくすると、立体障害が十分に小さくなくても同様の挙動を示すようになる。10,15,25,30-位にペンタフルオロフェニル基を有するものについては、type-IIのみを示すもの、type-Iとtype-IIの平衡混合物となるもの、そしてtype-Iのみを示すものが存在することを明らかにし、学術論文とし成果発表した。
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