研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、発光性有機色素を用いた刺激応答性固体発光および固体円偏光発光の実現である。最終年度である本年度はこの目的の達成に向けて、前年度までに引き続き新規発光性有機色素の合成とその光学特性について検討した。 π共役系色素の凝集状態における高効率発光を実現するためには、π―πスタッキングを抑制し濃度消光を避けることが求められる。そのためには、分子全体として非平面となる構造をもった発光性有機色素が望ましい。昨年度までの研究において、我々はベンゼン環の1,3,5位にナフタレンビスイミドを導入した分子を合成した。本年度は、この分子の発光特性について詳細に検討した。 この分子は、クロロホルムなどの溶液中では孤立した分子としての光学特性をもち、ナフタレンイミド由来の弱い発光を示した。発光の温度および濃度依存性を詳細に調査したところ、この分子は分子運動に由来する励起エネルギーの失活のために発光が弱くなっていることを明らかにした。この分子の凝集状態における発光特性を明らかにするために、THFと水の混合溶媒中における発光を調べた。その結果、この分子は凝集することで発光が強くなることが明らかとなった。最も発光強度が強くなるのはTHF:水の混合比率が2:8の時であり、この条件でTHF中での発光に比べておよそ140倍に発光増強することが分かった。これは凝集状態においてπ―πスタッキングしておらず、分子の熱運動が抑制されたためであると考えられる。 固体状態での発光と分子構造ついて検討した。X線結晶構造解析の結果から、この分子は結晶中ではナフタレンイミドが積層した構造をとっていることが分かった。固体の発光を測定したところ、上述の凝集体と同様の発光が観測された。この固体発光の量子収率はおよそ5.0%であり、溶液中の0.4%と比べて大きく増加していることも分かった。
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