研究課題/領域番号 |
18K05087
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷 文都 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (80281195)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アズレン / ヘリセン / 光学活性 / チオフェン / 酸化還元 / HOMO-LUMOギャップ / 光物性 / キノン |
研究実績の概要 |
らせん状のπ電子系を持つヘリセンは、その光学特性などを活かした機能性分子の開発が期待されている。しかし、一般的にヘリセンのHOMO-LUMOギャップは大きく、26π電子系を持つ[6]ヘリセンでは約3 eVである。近赤外や可視光を利用する機能性材料への展開には、HOMO-LUMOギャップの小さいヘリセンが求められる。 本研究では非交互共役系に起因する分極したπ電子系を持ち、狭いHOMO-LUMOギャップを有するアズレン骨格に着目し、アズレンとイソベンゾチオフェンが縮合した構造を有するAIBTh (bis-azulenoisobenzothiophene)の設計・合成を行った。AIBThの単結晶X線構造解析により、7員環に置換したメチル基の分子内立体反発に起因するヘリセン構造を確認した。電気化学測定によると、AIBThは2段階の可逆な酸化波と1段階の還元波を示し、そのHOMO-LUMOギャップは2.08 eVであった。また吸収スペクトルの長波長側末端は800 nmに達していた。以上より、AIBThは同じ26π電子系である[6]ヘリセンよりも大幅に小さいHOMO-LUMOギャップを持つことが判明した。さらに、キラルHPLCを用いたAIBThの光学分割にも成功し、光学活性なAIBThはトルエン中80 °Cで20時間加熱してもラセミ化は全く示さなかった。 アントラキノンにアズレンが縮環したヘリセンも合成した。前者のヘリセンの電気化学的測定においても、2段階の可逆な酸化波と2段階の可逆な還元波が確認された。通常のアントラキノンでは酸化波は確認されないこと比較すると、今回合成したアズレン縮環型アントラキノンは特異な電子構造を持っており、HOMO-LUMOギャップも1.42 eVと非常に狭いことがわかった。また、吸収スペクトルにおいても、長波長側の吸収末端は1100 nmに達しており、電気化学的データと合致していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的化合物の合成に成功し、X線結晶構造解析、光学分割、酸化還元特性、光物性なども実施し、論文投稿の準備を進められる研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
アズレンを構成要素とするヘリセンは、過去に報告されているヘリセンでは実現が難しかった豊かな酸化還元活性を持っていることが明らかになってきた。アズレンを構成要素とする類似構造のヘリセンを複数合成し、それらの酸化還元活性を系統的に調査し、その構造ー活性相関を検討する方向で研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)物品費については、当初の計画よりスムーズに研究が進んだことおよび試薬や溶媒の節約に努めたことにより、購入費が少なくなった。旅費については、外部での研究打ち合わせを電話やメールで済ませることにより、節約できた。
(使用計画)新しく設計した化合物を合成するための試薬や物性測定のための測定器具の購入および外部での測定実験のための旅費に使用する予定である。研究成果発表のための学会に参加する旅費にも使用する。
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