研究課題/領域番号 |
18K05087
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷 文都 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (80281195)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アズレン / ヘリセン / カチオンラジカル / チオフェン / 不斉 / 電子スピン / 酸化 |
研究実績の概要 |
分子内にらせん構造を持つヘリセンは、その光学活性を活かした機能性材料への応用が期待され、酸化還元活性を有するヘリセンも合成されている。しかし、そのような酸化還元プロセスにより生成するイオン性ラジカルや中性ラジカルなどの開殻系ヘリセンが安定に単離された例はきわめて限られている。不斉ヘリセンのラジカル種は単一の分子内にキラリティと電子スピンの両方を有するという希有な特徴から、基礎科学および工学的応用の双方において興味深い化学種である。そこで、本研究ではヘリセンの安定カチオンラジカル種を与える新しい分子骨格を構築することを目的として、電子供与性の高いイソベンゾチオフェンと1,1’-ビアズレンから構成されるAIBTh (bisazulenoisobenzothiophene)を設計・合成した。 AIBThは、鈴木-宮浦クロスカップリング反応および酸化的縮環反応という2段階で、ヘリセンとしては短い反応経路で効率よく合成された。単結晶X線構造解析により、7員環に置換したメチル基の分子内立体反発に起因するヘリセン構造を確認し、キラルHPLCを用いて光学分割をおこなった。アズレン骨格を含む初めての不斉ヘリセンである。電気化学測定では、AIBThは可逆な2段階の酸化波と不可逆な1段階の還元波を示した。AgPF6を酸化剤として用いた一電子酸化反応により、室温、空気中で安定なAIBThのカチオンラジカルの単離に成功した。カチオンラジカルのESRスペクトル、X線結晶構造およびDFT計算などに基づいて電子構造を考察した。π電子系全体に不対電子のスピンが広く非局在化し、アズレン部の7員環が芳香族性のトロピリウムイオン構造を取る共鳴構造が有利であり、電子構造を規定する主要因と考えられる。また、正電荷の安定化には、チオフェン硫黄原子からの電子供与が有効に働いていることも確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アズレンを含む世界初の不斉ヘリセン化合物の合成や構造解析に成功し、また、非常に希少価値の高いヘリセンのカチオンラジカルの単離、構造解析にも成功した。これらの成果をBulletin of the Chemical Society of Japanに発表したところ、2019年11月号の最優秀論文に選定された。
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今後の研究の推進方策 |
構成要素であるアズレンを化学修飾することによって、さらに安定かつ多機能なヘリセン化合物とそのラジカル種の合成、単離、物性開拓を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の効率的な使用に努めたため、当初の予算より少ない支出となった。次年度の消耗品の購入に使用する計画である。
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