研究課題/領域番号 |
18K05088
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西藪 隆平 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (00432865)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポリビニルアルコール / ボロン酸 / コーティング膜 / 表面修飾 / ヒドロゲル / 架橋 / 親水性膜 / コーティング剤 |
研究実績の概要 |
本研究課題で調製されたコーティング剤から作製された膜の物性調査およびボロン酸類を分子インクとして用いた当該膜の機能化を検討した。種々の素材からなる基板上に当該コーティング剤からなる膜を作製した。得られた膜は無色透明で,水および各種有機溶媒に不溶であった。当該膜の水に対する接触角を測定したところ,用いた基板の素材に依存することなく,コーティング剤の主成分であるポリビニルアルコールの物性に起因する小さな接触角が観測され,膜の高い親水性が示唆された。当該膜の親水性は,優れた防曇性やタンパク質に対する極めて低い吸着性を示した。当該膜を用いた細胞接着実験では,細胞の接着がほんとんど認められなかった一方で,その培養液中において細胞増殖が観測されたことから,当該膜の高い生体適合性が示唆された。また,異なる分子量およびケン化度を持つポリビニルアルコールを用いることでも同様の物性を持つ膜が得られた。 ボロン酸類を分子インクとして用いた当該膜の機能化の一環として,種々の重金属イオンと結合して比色応答を示すアゾ化合物にボロン酸基を導入した化合物を分子インクとして合成した。当該化合物の溶液を,ポリビニルアルコールをコーティングしたポリスチレン基板などにマイクロピペットを用いて滴下した。滴下されたスポットは化合物由来の黄色を呈し,水への浸漬による退色が認められなかったことから,ボロン酸エステル結合を介してボロン酸がコーティング膜に固定化されていることが示された。当該基板を鉛イオンや銅イオンなどの重金属を含む水溶液に浸漬したところ,スポットの色が黄色から赤色へと変化し,その色調変化と金属イオン濃度との間に高い相関性が認められたことから,金属イオン試験紙としての応用可能性が示された。 以上の結果は,当該コーティング剤が固体材料の表面に機能を付与するための土台を提供する基盤材料となることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該コーティング剤により作製されたポリビニルアルコール架橋膜は高い親水性を有することから,高い防汚性や防曇性,生体適合性などその親水性に起因する様々な機能の発現が期待された。当該コーティング剤を用いて作成された膜が高い透明性に加えて優れた防曇性を示したことから,細胞培養用シャーレや各種光学材に対するコーティング剤としての応用可能性が示された。また,当該膜がタンパク質や細胞に対して極めて低い接着性を示したことから,生化学実験器具や医療器具のコーティング剤としての利用可能性が示された。このような多彩な機能を持つ膜が安価な材料からか簡便に得られることは工業的にも極めて意義深い。 当該コーティング剤を用いることで種々の素材および形状を持つ固体材料の表面にポリビニルアルコールからなる膜を作製できことは,当該コーティング剤から作製される膜を介して,ボロン酸を機能性インクとして様々な固体材料の表面に固定化できることを示している。この知見は,種々の重金属イオンと結合して比色応答を示すアゾ化合物にボロン酸基を導入した化合物をインクとして用いることで,当該コーティング剤で被膜された種々の材料から重金属イオンを検出できる試験片を作製する着想を導いた。当該ボロン酸の溶液を,ポリビニルアルコールでコーティングされた固体材料に滴下するだけで,その表面にボロン酸を安定に固定化することができた。得られた材料は水中の鉛イオンや銅イオンといった重金属イオンに対して色調変化を示し,これら金属イオンを検出するための試験片として利用できることが分かった。このことは,親水性膜を与える当該コーティング剤と,インクとしてのボロン酸との組み合わせが,試験片を作製するための有用な道具となるだけではなく,任意の機能を任意の固体材料の表面に付与できる極めて優れた固体材料表面機能化法となることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で開発されたポリビニルアルコールとベンゼン-1,4-ジボロン酸とのエタノール水溶液からなるコーティング剤において,溶液状態では架橋に起因する析出物の生成や粘度の上昇が認められないことは,ベンゼン-1,4-ジボロン酸によるポリビニルアルコールの架橋がコーティング剤が乾燥する過程で進行していることを示している。このことは当該溶液を「インク」として利用できることを示している。すなわち,任意の機能を持つボロン酸を当該溶液に共存させた溶液を「インク」として用いることで,様々な素材および形状を持つ固体材料の表面にボロン酸が持つ機能を塗布による一段階で付与できることを示しており,分子インクとしてのボロン酸が持つ機能をマテリアル化できることを意味している。そこで,本研究課題で開発されたコーティング剤と機能性のボロン酸との混合溶液を「機能性インク」として種々調製し,様々な固体材料の表面に塗布することで,当該材料の「機能性インク」としての有用性を検証する。 また,当該コーティング剤から得られる膜はポリビニルアルコールがベンゼン-1,4-ジボロン酸で架橋された網目構造をその内部に有することから,網目構造よりも大きな物質であれば,あらかじめコーティング剤に加えておくことで,形成する膜中にそれら物質を物理的に内包させることができると期待される。酵素の内包は固定化酵素などとしての応用が期待されることから興味深いため,水だけを溶媒として用いたエタノールを使用しないポリビニルアルコールとベンゼン-1,4-ジボロン酸とからなるコーティング剤の開発に取り組むとともに,当該水溶液から作製される膜が水に溶けないという現象を生かした機能化開拓をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算額700,000円のうち699,983円を使用し,次年度使用額が17円となった。この17円は次年度の予算と合わせて,次年度の研究計画に沿って適切に使用する。
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