研究課題/領域番号 |
18K05089
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
加藤 真一郎 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (70586792)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ジラジカル / 酸化還元 / キノジメタン / 複素芳香環 / ラジカルカチオン / 芳香族性 |
研究実績の概要 |
基底閉殻一重項に開殻一重項ジラジカルの電子状態が混ざった性質をもつ化合物群は,「開殻一重項ジラジカロイド」と呼ばれる。これらは通常の閉殻化合物とは異なる光電子的,電気化学的,および磁気的性質をもち,種々の有機電子デバイスへの応用可能性があるため,合成と物性に関する研究が盛んに行われている。しかし,ジラジカロイドの多くは開殻性ゆえに不安定である。本研究では,独自の化学修飾法に立脚して,安定なジラジカロイドを開発し,その特異な物性を活かした機能材料への展開を計画している。 研究初年度は,我々が開発したジラジカロイドである,フェナントレンが縮環したジシクロペンタナフタレン誘導体の合成経路を徹底的に見直し,高収率で合成する経路を確立した。また,この合成経路を利用して,フェナントレンの代わりにナフタレンが縮環した化合物の合成の糸口を見出していた。2年目はナフタレンが種々の位置で縮環した一連の化合物を良好な収率で合成し,ナフタレンの縮環位置により一重項種-三重項種の間のエネルギー差を精密に制御できることを明らかにした。 次に,研究初年度に合成したジフルオレノ[4,3-b:3’,4’-d]フラン (DFFu) の物性を詳しく検討し,温度可変NMRとESRにより,これがジラジカロイドであることを明らかにした。また,DFFuのラジカルカチオン種やジアニオン種の同定にも成功した。 上記研究を遂行する過程で,ヘテロ元素を含有するラジカルカチオン種の物質開拓に関心をもち,トリフェニルアミンラジカルカチオンに照準を当てた。手始めに,トリフェニルアミンをジメチルメチレンと硫黄で架橋した化合物を設計・合成した。その化学酸化により,対応するラジカルカチオン塩を,固体状態と溶液状態のいずれにおいても大気下で安定な物質として単離・構造決定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の項目に関して計画通り研究を行い,期待した成果が得られた。 ・ナフタレンが縮環したジシクロペンタナフタレン誘導体の効率的合成経路を確立し,そのジラジカル性 (一重項種-三重項種の間のエネルギー差) が,縮環したナフタレンの位置により明確に異なることを実験的に明らかにした。 ・DFFuを短段階かつ高収率で合成した。DFFuは最も安定かつ合成容易なジラジカロイドの一つである。また,そのラジカルカチオン種の合成・単離,およびジアニオン種の発生・同定を遂行した。 ・炭素と硫黄で架橋した,パラ位無置換トリフェニルアミンラジカルカチオンを合成し,その構造解析と物性評価を遂行した。このラジカルカチオンは,硫黄を架橋原子とする,初めてのパラ位無置換トリフェニルアミンラジカルカチオンである。
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今後の研究の推進方策 |
・ジラジカロイドの速度論的安定化のために,嵩高い置換基であるメシチル基を導入しているが,これを他の置換基に換えることで分子パッキングを制御し,電子デバイスへの展開を検討する。 ・DFFuのジアニオン種について,そのglobalな芳香族性を明らかにすることができたので,ジカチオン種も同様に検討する。また,ジカチオン種の開殻性を探る。 ・DFFuの酸素を硫黄や窒素に変換したジラジカロイドを合成し,ヘテロ元素によるジラジカル性の精密制御を検討する。 ・炭素と硫黄で架橋した新奇なトリフェニルアミンラジカルカチオンについて,硫黄を酸素に変換したものや,更に縮合共役骨格を拡張したものを合成し,スピンや正電荷の非局在化の程度を変調する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究室および所属研究機関で現有している試薬(金属触媒等)および測定機器(電気化学測定装置など)を用いることで,当初の予想以上に円滑に研究を進めることができたため,2020年度に使用額が生じた。 (使用計画)2018~2019年度と同様に,2020年度も研究費は主に消耗品費として用いる予定である。また,得られた研究成果の学会発表のための国内外旅費にも,研究費の一部を割り当てる予定である。
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