研究実績の概要 |
フェナントレンやナフタレンが縮環した,種々のジラジカロイドの磁化率を実験的に算出した。また,ジラジカロイドのラジカルカチオン種とラジカルアニオン種の電子状態を,分光電気化学測定と量子化学計算により詳細に検討した。これにより,ラジカルカチオンとラジカルアニオンでは,電荷とスピンの非局在化の機構が異なることがわかった。一つのラジカルカチオンについては,ヘキサクロロアンチモン塩として単離することにも成功し,一電子酸化により分子全体の結合長が変化することを実験的に明らかにした。 独自に開発したジラジカロイドであるジフルオレノ[4,3-b:3’,4’-d]フラン (DFFu) の酸素原子を硫黄原子に変えた化合物,すなわちジフルオレノ[4,3-b:3’,4’-d]チオフェン (DFTh) の合成に成功した。NMRおよびESRスペクトル測定により,DFThもDFFuと同様に,ジラジカロイドであることがわかった。ヘテロ元素の違いにより,ジラジカル性が異なることを見出しつつある。現在,DFFuとDFThの半導体特性を調べている。また,DFThのラジカルカチオン種,ラジカルアニオン種,ジアニオン種を合成・同定し,フランとチオフェンの芳香族性や電子供与性の違いが,酸化還元種の電子状態に与える効果を明らかにした。 前年度に合成した,炭素と硫黄で架橋したトリフェニルアミン誘導体の硫黄原子を酸素原子に変えた化合物を合成した。これを化学酸化して,対応するラジカルカチオンの単離・構造決定に成功した。また,酸素原子を含むトリフェニルアミン誘導体のジベンゾ縮環体も合成し,更にラジカルカチオンに導いた。これは,初めてのジナフチルフェニルアミンラジカルカチオンである。3つのラジカルカチオンの構造と物性を比較検討することにより,ヘテロ元素とジベンゾ縮環がスピンの非局在化に与える効果を明らかにした。
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