研究実績の概要 |
昨年度は、ホスフィンドリジン誘導体の初めての例であるジベンゾ[b,e]ホスフィンドリジン1の合成に成功し、その構造・性質・リン原子まわりの反転挙動を明らかにした。本年度は、1の合成法を活用して、ベンゼン環の縮環位置が異なる構造異性体2 (ジベンゾ[b,g]ホスフィンドリジン)およびナフタレン縮環ホスフィンドリジン3,4の合成を行った(3と4はベンゼン環の縮環部位が異なる異性体)。X線構造解析の結果、化合物3, 4は1と同様の湾曲構造をとっていたのに対し、化合物2ではベンゾホスホール環ともう一方のベンゼン環がねじれた構造をとっていることが分かった。紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、化合物2の吸収波形は化合物1とは大きく異なっていた。化合物2の最長極大波長は380 nmであり、化合物1 (397 nm)と比較して短波長シフトしていた。理論計算の結果、ホスフィンドリジンの六員環骨格に存在するオレフィンが、分子全体のπ系へ大きな影響を与えていることが分かった。化合物3,4では、1,2と比較して大幅な長波長シフト(434-437 nm)が観測され、ベンゼン環の縮環による共役拡張効果が見られた。一方で、化合物3,4の異性体間では顕著な違いは観測されなかった。CVを測定したところ、酸化および還元電位は、+1.24 V, -1.68 V(化合物2)、+1.12 V, -1.54 V (化合物3)、+1.04 V, -1.64 V(化合物4)であった。以上の結果から、ベンゼン環の縮環位置・縮環数の違いによってホスフィンドリジン骨格の電子状態が大きく変化することが明らかにできた。
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