研究実績の概要 |
ナノグラフェン骨格に窒素原子を導入することで高い電子特性(半導体特性や酸化還元能など)が期待される。しかし、これまで窒素原子を含むナノグラフェンはあまり研究されていない。申請者は、高いジラジカル性や酸化還元能をもつ分子として2-アザフェナレニル構造をもつ縮合多環状共役系化合物を合成の標的化合物として研究を行った。ナフタレンイミド骨格はヒドリド還元によってアザフェナレニルへ変換可能であることが知られている。2-置換-2-アザフェナレニルは反応性の高いアゾメチンイリドユニットをもつ化合物であるものの、反応中間体としてその存在が確認されているのみであった。そこで、適当な立体保護によって安定な化学種として単離することを目的に、5,8位にt-ブチル基と2位に2,6-ジイソプロピルフェニル基を導入することで、2-アザフェナレニル誘導体を熱的には安定な緑色の結晶性化合物として単離することに成功した。X線結晶構造解析により構造を決定し、各種スペクトルによって電子状態の解明を行なった。この化合物は極めて酸素に敏感な化学種であったが、グローブボックス中で生成・単離操作を行なうことができた。アゾメチンイリド誘導体として初めて単離された化合物である。また、この化合物を銀塩を用いて酸化することで、相当するラジカルカチオンを安定な化合物として単離することに成功した。結晶構造解析により、高い平面性をもつことや、中性種よりも結合交替が小さいことなども明らかになった。ESRスペクトルとその理論解析によって、スピン密度の見積もりも行った。これらの研究をさらに発展させることで、アザフェナレニル骨格を持つ多様な含窒素共役系化合物の構築が可能になるものと期待される。
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