DNAなどに見られる二重ラセン構造は、ラセンの巻き方によって左右のラセン構造が存在し、これらは互いにキラルである。本研究では、面不斉や軸不斉によって誘起されたπ共役系ユニットのねじれが互いに絡み合うように設計された二重ラセン分子の構築を行った。こうしたπ共役系でつくる二重ラセン分子は、円二色性(CD)スペクトルや円偏光発光ス(CPL)ペクトルなどの優れたキラル光学特性を示すことが期待される。特にCPL特性は偏光やスピンが関与する光学材料につながるが、その詳細については未解明なままである。 本年度は[2.2]パラシクロファン(PC)によって挟まれた環状オリゴフェニレン分子の合成およびキラル光学特性の調査を行った。擬オルト2置換[2.2]PCとビフェニルから成るユニットで作る環状二量体は2本のクォーターフェニレンが互いにねじれる二重らせん構造を形成した。X線結晶構造解析の結果から、実際に二重らせん構造とることを明らかにした。この化合物はよく光るオリゴフェニレンが剛直な構造に組み込まれているため、強い蛍光を示し、ジクロロメタン中で高い量子収率(0.70)を示した。また、吸収スペクトルおよび円二色性スペクトルではπ-π*遷移に起因するスペクトルが観測され、強い第一コットン効果が観測された。ジクロロメタン中で円偏光発光スペクトルを測定すると、蛍光スペクトルに一致した波長領域でコットン効果が観測され、中程度のg値(0.0016)(g値:円偏光発光における非対称性因子)を示した。量子収率と掛け合わせたCPL輝度、Bcpl は21となり、比較的高い値を示した。
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