本研究では高感度分析法である質量分析のみでキラル分析を達成することを目的としている。前年度に見出したアミノ酸に対して優れたキラル識別能を有し、質量分析でアミノ酸との錯イオンピークをベースピークとして高感度検出できるキラル銅錯体を活用して、アミノ酸の光学純度決定法を確立した。キラル銅錯体の一方のエナンチオマーを安定同位体である重水素で標識した。標識した銅錯体のエナンチオマーともう一方の非標識銅錯体のエナンチオマーの等モル混合物を調製し、そこにアミノ酸を加えて質量分析(イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法)を測定すると同位体標識分だけ質量が異なる2本のアミノ酸‐キラル銅錯イオンが検出された。ラセミアミノ酸を加えると錯イオンピーク強度比は1.00となった。光学純度を上げるとそれに伴い錯イオンピーク強度比が大きくなった。この錯イオンのピーク強度比とアミノ酸の光学純度が良い相関関係を示すことがわかった。すなわち、この標識・非標識キラル銅錯体エナンチオマー対を用いることで質量分析のみでアミノ酸の光学純度を決定する手法を確立できた。さらにアミノ酸を約20種混合した系でも、イオンサプレッションの影響がほどんど無視できるほど小さく、錯形成定数の小さなものを除く約10種類以上のアミノ酸の光学純度が同時に決定できることがわかった。また、分析時間も数分以内であり、迅速高感度に評価できることが分かった。アルコールや炭化水素などの中性キラル化合物を包接するシクロデキストリンやピラアレーンを用いてのキラル分析を試みたが、錯イオンが安定に得られないため、さらに緻密な分子設計が必要であることが示唆された。
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