研究実績の概要 |
本研究は、配位子上に「電気」と「水」から再生可能なヒドリドを生成できる金属錯体を創製し、「有機ヒドリド」としての機能を強める反応系を構築することにより、有機物の高効率な還元・二酸化炭素の多電子還元によるメタノール生成を実現するための技術開発を目的としている。平成30年度は、NAD+/NADH型酸化還元能を示すユニットをもつ金属錯体の創製として、ピリジン縮環系の化合物である1,8-ナフチリジン (napy) およびジベンゾ[c,h]-1,9,10-アンチリジン (dbanth) を用いて錯体合成の検討を行った。 napyを配位子にもつ金属錯体 [Ru(κ2N,N'-napy)(bpy)2](PF6)2 ([1](PF6)2) および[Cp*MCl(κ2N,N'-napy)](PF6) (M = Rh([2](PF6)), Ir ([3](PF6)) をそれぞれ合成した。これらの錯体に対してCOを反応させたところ、[1](PF6)2は[Ru(CO)(κN-napy)(bpy)2](PF6)2 ([4](PF6)2) へと変換された。一方、 [2](PF6) および [3](PF6) は、COと反応しなかった。次に、dbanthを用いて錯体の合成を試みた。上記napy錯体と同様の反応により、[Ru(κ2N,N'-dbanth)(bpy)2](PF6)2 ([5](PF6)2) および[Cp*MCl(κ2N,N'-dbanth)](PF6) (M = Rh([6](PF6)), Ir ([7](PF6)) をそれぞれ合成した。[5](PF6)2はCOとの反応により、[Ru(CO)(κN-dbanth)(bpy)2](PF6)2 ([8](PF6)2) へと変換されたことを強く示唆する結果が得られた。一方、RhおよびIr錯体については、ほとんど反応は進行しなかった。[4](PF6)2および[8](PF6)2の合成に成功したので、電解還元反応により、これらの錯体のNAD+/NADH型酸化還元能を示す錯体への変換について検討した。現在、生成物の単離・精製について検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、NAD+/NADH型酸化還元能を示す錯体の前駆体として、配位子上にピリジン部位をもち、かつそのピリジンのN原子のcis-位に一酸化炭素が配位した錯体の合成について検討した。Ru錯体 [4](PF6)2 および [8](PF6)2 は、[1](PF6)2 および [5](PF6)2 に対するCOの作用により、溶液の色がそれぞれ赤褐色・橙褐色から黄色へと変化したこと、NMRスペクトルからほぼ1種類の錯体のみが生成しており、かつnapyおよびdbanth配位子が残存しているなどの知見が得られたことから、予定通り合成ができたものと考えられる。これらの錯体の電解還元により、napyおよびdbanth配位子中の金属に配位していないピリジン基のN原子と、CO配位子のC原子間で結合を作ることで、NADH型のユニットを形成できる。[1](PF6)2および[5](PF6)2の電解還元反応を行った結果、溶液の色が変化したことから、反応の進行を確認した。現在、生成した錯体の単離・精製を検討している。さらに、dbanthとCOを併せもつ錯体の合成を目指し、[RuCl2(CO)2(PPh2Me)2]とdbanthとの反応を試みたところ、[RuCl(CO)(κ2N,N'-dbanth)(PPh2Me)2](PF6) ([9](PF6)) および [RuCl(CO)(κ2N,N'-dbanth)(κN-dbanth)(PPh2Me)](PF6) ([10](PF6)) が生成した。今後、この錯体についても検討を行う。一方、RhおよびIr錯体については、 [2](PF6), [3](PF6), [6](PF6) および[7](PF6) からのカルボニル錯体への変換ができなかった。これは、Cl配位子が解離しにくいことを示している。以上、Ru錯体を用いることで目的とする錯体の前駆体の合成に成功したこと、電解還元による目的錯体への変換反応も進行していることが強く示唆されたことから、本研究は概ね順調に進行しているといえる。
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