研究実績の概要 |
本研究は、電気化学的に再生可能なヒドリドを生成できる金属錯体を創製し、「有機ヒドリド」としての機能を強める反応系を構築することにより、有機物の高効率な還元・二酸化炭素の多電子還元によるメタノール生成を実現するための技術開発を目的としている。令和2年度は、前年度に引き続き、ジベンゾ[c,h]-1,9,10-アンチリジン(dbanth)を配位子にもつ金属錯体が、NAD+/NADH型の酸化還元能を示すかどうか検討するとともに、多電子還元の可能性を有する低原子価多核錯体による二酸化炭素の還元の可能性について検討を行った。 dbanthを配位子にもつ金属錯体、[Ru(κ2N,N'-dbanth)(bpy)2](PF6)2 ([1](PF6)2) について、一酸化炭素との反応によるカルボニル錯体への変換反応について条件の最適化を行った。その結果、オートクレーブ中、2-メトキシエタノールを溶媒に用いて70 ℃で2日間加熱することにより、目的の錯体[Ru(CO)(κN-dbanth)(bpy)2](PF6)2 ([2](PF6)2) が収率良く得られることを明らかにした。[2](PF6)2を用いた電解還元反応からの生成物の分析を試みた。前年度の結果より、電解還元反応により還元反応が進行していると考え、電解質の除去および再結晶による生成物の単離を試みた。目的物の完全な単離には至らなかったが、生成物のNMRスペクトルでは、目的とする還元体の生成が観測された。しかし、主生成物ではない可能性が示唆され、電解還元反応の更なる条件検討が必要であることを示した。 本研究を通して、電気化学的に活性な配位子であるdbanthが、カルボニル錯体上で還元反応によりNADH型の構造へと変換できることが強く示唆される結果が得られた。これは、今後有機物および二酸化炭素の多電子還元系の構築を目指す上で重要な知見である。
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