研究課題/領域番号 |
18K05101
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
堀野 良和 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (30447651)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パラジウム / アリルシラン / 転位 / アリル化反応 |
研究実績の概要 |
これまでに,σ-アリルパラジウムのα位に有機メタロイド基を持つα-メタロイド-σ-アリルパラジウム中間体が,アリル化反応以外の炭素-炭素結合形成反応に利用できることを見出してきた。しかしながら,有機メタロイド基は脱離基としてのみ利用されており,メタロイド上の有機基を炭素源として利用する効率性に優れた触媒的分子変換反応の開発は急務であった。本研究では,メタロイド基としてシリル基とボリル基に着目し,α-シリル-σ-アリルパラジウム中間体のケイ素上の有機基の転位をともなう新規な触媒反応の創出を目指した。 パラジウム触媒とフッ化セシウム存在下,3位にトリメチルシリル基を有するアリルアセテートと水との反応をジオキサン溶媒中100 ℃で行うと,シリル基上のメチル基が転位することを見出した。例えば,1-フェニル-3-トリメチルシリルアリルアセテートを基質に用いると,1-フェニル-1-ブテンと1-フェニル-2-ブテンが得られる。さらに,ケイ素上の有機基の転位における一般的な傾向を確認したところ,アルキニル基>ビニル基>アルキル基の順に転位しやすいことが分かった。また,トリフェニルシリル基とトリメチルシリル基を持つ基質で転位の速度論的研究を行ったところ,フェニル基の方がメチル基よりも約1.4倍程度転位しやすいこともわかった。同様に,ケイ素上に4-メトキシフェニル基と4-トリフルオロメチルフェニル基をそれぞれもつ基質を用いて速度論的研究を行ったところ,4-トリフルオロメチルフェニル基を有する基質の方が速やかに進行した。このことから,ケイ素-炭素結合の結合解離エネルギーが小さいほど反応が進行しやすいことが明らかとなった。また,水の代わりに重水を用いると,シリル基が置換していた位置とそのγ位がそれぞれ重水素化されたことから,中間体としてアリルシランが生成していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画1年目は,1)ケイ素上の置換基の有機基の転位の一般的傾向と転位速度を実験的に見積もること,2) 有機基の転位における選択性の制御が可能か検討すること,3)求電子剤として水の代わりにアルデヒドを用いる検討を行うことを目的としていた。 ケイ素上の置換基の有機基の転位の一般的傾向と転位速度を実験的に見積もることは達成した。現在,計算化学を用いて反応のメカニズムに関する理論的な考察を共同研究で行っている。また,有機基の転位における選択性の制御については,アルキニル基とベンジル基で転位基の選択性が発現することが分かった。一方,求電子剤としてアルデヒドを用いる検討では,反応の一般性について検討することができた。このように,当初予定していた3つの計画のうち,2つの研究計画を終了させ,論文として発表できる段階にあることから概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発した反応を利用して,本研究課題の計画に挙げていた反応開発を推進していく。 1)求電子剤としてアルデヒドを用いる触媒的新規ホモアリルアルコールの開発,2)それを分子内反応に利用したエナンチオ選択的およびジアステレオ選択的アリル化反応の開発を目指す,3)リレーHeck反応を利用したドミノ反応の開発へ展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入した試薬が予定納入価格よりも安い金額で納入されたため。繰り越された金額は試薬の購入に充てる。 当初の研究計画で予定している有機合成用の試薬および実験用の消耗品の購入に,900,589円を物品費として使用する。また,国内学会の発表に必要な旅費として100,000円を計上する。
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