研究実績の概要 |
シリル基やボリル基などの有機メタロイド基が置換したπ-アリルパラジウム中間体が,アリル化反応以外の炭素-炭素結合形成反応に利用できることを報告してきた。これまでの反応では,有機メタロイド基は脱離基としてのみ利用されていた。本研究では,ケイ素官能基を持つπ-アリルパラジウム中間体のケイ素上の置換基の1,2-転位をともなう新規分子変換反応の創出を目指した。本年度は以下の成果を得た。 パラジウム触媒存在下,ケイ素官能基を持つアリルアセテートとアルデヒドとの反応を行うと,ケイ素上の置換基の1,2-転位をともなうアリル化反応が進行し,アリルシランのα位とγ位で反応した生成物が位置異性体の混合物として得らることを見出していた。鋭意検討を行ったが,位置選択性の問題を解決することはできなかった。そこで,分子内アリル化反応へ展開したところ,系中で生成するアリルシランのγ位で選択的に分子内アリル化反応が進行し,エキソメチレン部位を持つ5員環および6員環のホモアリルアルコール誘導体が高い立体選択性で得られた。また,ケイ素上の置換基の1,2-転位は,炭素-ケイ素結合が弱いほどが起こりやすいこともわかった。興味深いことに,分子間アリル化反応は,含フッ素トリアリールホスフィンを配位子として用いた場合のみ進行したが,分子内アリル化反応は配位子の電子的効果に関係なく進行した。研究期間の全体を通して本研究では,シリル基を有するπ-アリルパラジウム錯体において,ケイ素上の有機基が1,2-転位することを新規に見出し,合成困難なα,γ-二置換アリルシランを系中で生成させることに成功した。また,アルデヒドのアリル化反応へ連続的に利用することもできた。計算科学による反応機構の解明では,1,2-転位が分子内で進行していることが支持され,その転位の傾向についても明らかにした。
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