研究実績の概要 |
1,3-双極子とカルベンという異なる化学種の融合による高機能ハイブリッド活性種創生に基づく革新的分子変換法の開発を試みた。 まず,1,3-双極子と硫黄イリドとの融合の検討を行った。α,β-不飽和ニトロンと硫黄イリドの反応により,3,6-ジヒドロオキサジン誘導体合成法を開発した。この反応では,β-位炭素に,硫黄イリドが求核付加する[5+1]付加環化反応は進行せず,硫黄イリドがニトロン炭素に求核付加し,アジリジニウム塩を形成した後,酸素原子の求核付加による炭素窒素結合切断を伴う環化反応が進行したと考えられる3,6-ジヒドロオキサジン誘導体が得られた。硫黄イリドを予め調製し,2-メチル-2-ブテンを添加することで,収率を改善することができた。生成物の構造は得られた化合物のひとつのX線結晶構造解析により決定でき,また重水素化硫黄イリドを用いることにより,メチレンの挿入位置も特定できた。ルイス酸による本反応の活性化について検討したところ,ルイス酸の添加により,むしろ反応の進行が抑制されることが明らかとなった。ルイス酸の種類によって,中間に生成していると考えられるアジリジンN-オキシドと思われる化合物が単離されたが,構造確定には至っていない。 カルベン種として一酸化炭素の捕捉手法の開発を意識し,分子内アミノカルボニル化反応を試みたところ,パラジウム触媒を用いることにより反応が進行し,ビオキサゾリン配位子存在下不斉誘起も実現した。次に,1,3-双極子としてC,N-環状-N’-アシルアゾメチンイミンを用い一酸化炭素の捕捉を試みたが,生成物が得られることもあったが,再現性に乏しいという課題が明らかとなった。 カルベン種としてイソシアニドを活用して得られる複素環化合物の合成的応用を意識し,ピロールの酸化的官能基化を試みたところ位置選択的に酸化反応が進行し,ピロールの高度官能基化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,3-双極子とカルベンという異なる化学種の融合による高機能ハイブリッド活性種創生に基づく革新的分子変換法の開発を試み,硫黄イリドとの融合において,新たな知見が得られ,当初予期せぬ3,6-ジヒドロオキサジン誘導体の合成法を開発することができた。硫黄イリドにおいても,スルホキシニウムイリドの中でもメチレンスルホキシニウムイリドは,溶液として保存することができる程度の安定性があり, 1,3-双極子に対する反応性がスルホニウムイリドと異なることをも見出し,今後のハイブリッド活性種創生に有効な知見を得ることもできた。一方,ルイス酸による活性化,および不斉合成反応への展開においては,反応性が低下するという知見を得た。一見マイナスな知見ではあるが,中間に生成していると考えられるアジリジンN-オキシドの単離につながるという逆転的な展開が可能であることが示唆された。 一方,カルベン種としてイソシアニドと等電子構造である一酸化炭素は求核性が低く,1,3-双極子との反応性が極めて低いことも確認することができた中,パラジウム触媒の利用が一つの解決策となりうる,という知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1,3-双極子と硫黄イリドとの融合の検討し,α,β-不飽和ニトロンと硫黄イリドの反応により,3,6-ジヒドロオキサジン誘導体合成法を開発したが,硫黄イリドの求核付加の段階の進行が遅いことが,課題として浮き彫りとなった。また,中間に生成すると考えられるアジリジンN-オキシドの単離同定には至っていないが,ルイス酸の添加により,アジリジンN-オキシドと想定される化学種の生成が観測されている。今後,1,3-双極子とカルベンという異なる化学種の融合による高機能ハイブリッド活性種創生のための一つの手段として,アジリジンN-オキシド単離の重要性が改めて認識されるに至った。そこで,電子吸引性基で置換したニトロンを基質として選び,反応性の向上とともにアジリジンN-オキシドの単離を試みる。単離ができたばあいには,位置選択的開環手法の開拓を目指し,1,4-双極子としての活用を試みる。 C,N-環状-N’-アシルアゾメチンイミンは,カルベン種捕捉機能が高い。これまでに,イソシアニド,硫黄イリド,一酸化炭素の捕捉能を調べたが,他のカルベン型化学種の捕捉を試みる。例えばジアゾアルカンとの反応を試みる。 全体的な課題として,不斉環境下でのルイス酸等による反応の活性化と光学活性体合成の実現を目指す。 また,本研究の発展形として1,n-双極子と1,m-双極子の融合(1,3-双極子とカルベンの場合は,n = 3, m = 1)への一般化が考えられる。例えば,アゾ化合物はヘテロ原子として2つの窒素を含む有用な活性種であり,1,3-双極子の代わりに用いることにより,カルベンとの反応で新たな1,3-双極子としての機能が期待できることから,アゾ化合物の機能開発も視野に入れる予定である。
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