研究課題/領域番号 |
18K05102
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
宇梶 裕 金沢大学, 物質化学系, 教授 (80193853)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 1,3-双極子 / ニトロン / アゾメチンイミン / カルベン / 硫黄イリド / ジアゾ化合物 |
研究実績の概要 |
1,3-双極子とカルベンという異なる化学種の融合による高機能ハイブリッド活性種創生に基づく革新的分子変換法の開発を試みた。 昨年度,カルベン型化学種として硫黄イリドを選び検討を行なったが,今年度は,カルベン型化学種としてジアゾ化合物を選び,精力的研究を行なった。C,N-環状N’-アシルアゾメチンイミンとの反応について検討の結果,ジアゾ酢酸エチルを用いた場合には,酢酸エステル部位が付加した化合物が得られた。この化合物をさらに加熱することにより,脱窒素が起こりα,β-不飽和エステルが得られることも明らかにした。一方,ジアゾメタンを選択した場合には,環拡大反応が進行し,3-ベンズアゼピン誘導体の合成に成功した。さらに,TMSジアゾメタンを作用させた場合にも環拡大反応が進行したが,1,2-不飽和-3-ベンズアゼピンが主生成物となることが明らかとなり,ジアゾ化合物の選択により複数の化合物の作り分けに成功した。いずれの反応も,金属触媒などの添加は不要であり,ジアソ化合物の反応性のみで生成物を作り分けることができた点で,意義がある。最後の1,2-不飽和-3-ベンズアゼピン生成の反応機構についてはまだ解明に至っていない。 一方,硫黄イリドとの反応についても,引き続き検討を行なった。基質として,グリオキシル酸アミド由来の活性ニトロンを用い,メチレン型硫黄イリドとの反応を行なったところ,一炭素増炭したピルビン酸アミド由来のニトロンが得られることを明らかにした。この反応では,ニトロン炭素に求核付加し,ヒドリド転位が起こって増炭反応が進行したと考えられる。反応の収率向上およびEZ選択性の向上が今後の課題である。 カルベン種として一酸化炭素の捕捉手法の開発を意識した分子内アミノカルボニル化反応を試み,パラジウム触媒存在下,キラルなビオキサゾリン配位子を加えて不斉誘起の向上を引き続き追求した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,3-双極子とカルベンという異なる化学種の融合による高機能ハイブリッド活性種創生に基づく革新的分子変換法の開発を試み,硫黄イリド以外にもジアゾ化合物との融合において,新たな知見が得られ,当初予期せぬ種々の複素環を合成し分けることが可能であることを明らかにした。化合物の作り分けの鍵ポイントのひとつは,ジアゾα炭素に結合している水素の酸性度が影響していると考えられる。酸性度が高い場合には,この酸性Hの引き抜きを端とする反応へシフトすることが作り分けの鍵であるという知見を得ることもできた。このように,硫黄イリド以外にカルベン型化学種としてジアゾ化合物を用いることにより,特徴ある複素環合成へ発展できる可能性を見出した点で,意義深い。 一方,ニトロンとの反応について引き続き検討した結果,当初の予想とは異なり,ヒドリド転移を伴う増炭反応を見いだすことができた。まだ,収率および選択性に問題が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,1,3-双極子と硫黄イリドとの融合の検討し,α,β-不飽和ニトロンと硫黄イリドの反応による3,6-ジヒドロオキサジン誘導体合成法,グリオキシル酸アミド由来の活性ニトロンによる増炭反応を見出した。また,C,N-環状N’-アシルアゾメチンイミンとジアゾ化合物との反応において,ジアゾ化合物を選ぶことにより,複数の化合物の作り分けも可能であることを見出した。後者2つの反応に関しては,基質一般性についてまだ確認できていないので,今後の検討課題の一つとなる。グリオキシル酸アミド由来の活性ニトロンによる増炭反応においては,新たな求電子剤を系内で発生させることができることから,段階的に異なる求核剤を2回反応させることにより,二重求核付加反応を検討したい。後述のように不斉反応場で行うことにより,光学活性化合物合成への展開も計画している。 一方,硫黄イリドおよびジアゾ化合物の求核付加の段階の進行が遅いことが,課題である。また,中間に生成すると考えられるアジリジンN-オキシドあるいはアジリジンN-イミドの単離同定には至っていない。いずれの課題においても,ルイス酸の添加により,反応性を高める,反応性を変える,ということが期待できる。例えば反応性を下げることができれば,アジリジンN-オキシド等の単離ができる。一方,反応性を高めることができる場合には,すでに見出している酒石酸化合物由来の複核キラル反応場において反応を実施することにより,エナンチオ選択性制御への展開も可能と考えている。さらに,例えばニトロンへの求核付加後の閉環の位置選択性の制御により,4員環の1,2-オキサアゼチジンの新規合成への展開も試みたい。
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