研究課題/領域番号 |
18K05104
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上西 潤一 大阪大学, 薬学研究科, 招へい教授 (50167285)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Tetrahydroisoquinoline / Pictet-Spengler reaction / Cyclization / Imine / Arylation |
研究実績の概要 |
d-Tubocurarineおよびcurine類の基本骨格である6位および8位にフェノール性水酸基を有する1位置換テトラヒドロイソキノリン環の構築に関して、Pictet-Spengler反応を用いる実践的な検討を行った。そして二つの重要な研究成果を得ることができた。 2-フェネニルエチルアミン類は各種アルデヒドと酸触媒の存在下にPictet-Spengler反応を起こし、1位置換テトラヒドロイソキノリン環を与える。この反応ではアミンとアルデヒドが脱水後にイミン中間体が生成し、これが酸触媒により活性化されイミニウムイオンを経由して分子内芳香族求電子置換反応が起きる。しかし酸触媒が存在しないとイミニウムイオンが生成しないため反応が起きない。ところが、3及び5位に水酸基やメトキシ基を有するフェネチルアミン類では、芳香環の電子密度が十分に上昇し、いくつかの溶媒中、アルデヒドと室温で反応し1位置換テトラヒドロイソキノリンを与えることを見出した。この反応条件を実際の全合成に用いるB―C基質部とA基質部分に適用したところ、A―B―Cユニットの合成が、酸触媒の存在なしに室温数時間という温和な条件下に高収率で達成できた。 本反応では2-フェニルエチルイミン中間体が酸により活性化されていないにも関わらず、室温という緩和な条件下に電子豊富な芳香族とPictet-Spengler反応が起きた例である。そこで電子不足の芳香族アルデヒドと脂肪族アミンから容器内でイミンを発生させ、レゾルシノールを作用させたところイミン炭素への分子間アリール化反応が起きることを見出した。即ち室温かつ酸の非存在下という緩和な条件でイミンのアリール化が進行することが分かった。
上記の二つの新知見は本研究を遂行してゆく上で重要であり、かつイミンの新しい反応性を開拓できる端緒となる極めて価値のある発見と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
天然物の全合成を目指す研究には往々にして思わぬ発見が伴う。この場合にもPictet-Spengler反応は酸触媒が必要であると頭から思い込んでいたことが、基質の溶解度の低さの解決の必要性が発端となりこれを克服する条件を模索するうちに、イミンへのアリール化反応の本質にまで迫ることとなった。2-フェニルエチルアミン類はトリプタミン類に比較して電子不足でありPictet-Spengler反応が起きにくいことから、これまで過激な条件が必要とされてきたが、本合成に用いる電子豊富な2-フェニルエチルアミン基質では予想以上に反応性が高いことを見出し、これを分子内および分子間の反応の詳細な検討を行っている。 しかしこの追求により、本来の目的であるd-Tubocurarineの全合成はやや遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
緩和な条件下にテトラヒドロイソキノリン環の構築が可能になったことから、まずはラセミ体での全合成を進める予定である。そしてその後に、緩和な条件下に弱い相互作用を発揮する二点反応性の不斉触媒を試み、キラル合成を行う計画である。 また、今回見出された反応は学術的に非常に重要であると考えられるため、この反応の特性についても継続的に検討を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入する必要であった分離クロマト機器が、グループの別途予算で購入されたこと、およびコロナウイルス感染予防における研究自粛のため予定していた年度末消費が実行できなかったため。
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