研究実績の概要 |
将来の化学が、化石資源に依存した化学プロセスから脱却するには、従来利用されなかった普遍炭素資源を効率的に活用する技術開拓が必要になる。バイオマスなどの多くの天然資源に含まれる脂肪族アルコールもまた普遍炭素資源の一種である。また、脂肪族アルコールは容易に化学的に安定な脂肪族トシラートに変換可能である。脂肪族トシラートを有機合成の根幹をなす炭素-炭素結合形成反応における出発原料として利用可能になれば、合成プロセスの簡略化や天然資源の有効利用法の開拓につながるエネルギー・環境分野におけるグリーンイノベーションを創出する革新的なもの作り技術になると期待できる。
シクロヘキシルトシラートと4-ヨードアニソールとのクロスカップリング反応を検討した。様々な反応条件を調査した結果、臭化ニッケル触媒(10 mol %)とビピリジン配位子(10 mol %)、ビタミンB12(VB12, 10 mol %)、マンガン還元剤(2.0当量)とヨウ化カリウム(1.0当量)の存在下、DMF溶媒中、30度で反応を行ったところ、予想したクロスカップリング体が効率的(68%収率)に形成することがわかった。本反応の進行には、ニッケル触媒とコバルト触媒の両方の触媒が必要であり、前者の触媒のみではヨードアニソールのホモカップリング体が排他的に得られ、後者の触媒のみではクロカップリング体は全く得られないことが判った。上記探索で得られた知見を利用することで、多彩な置換基を有する芳香族ハロゲン化物を用いることができ、さらに、エーテルやアミド、エステル、ケトンなどの多様な官能基を持つ脂肪族トシラートが本反応に利用可能であることがわかった。また、上記の反応形式は、肪族トシラートと脂肪族ハロゲン化物間でのクロスカップリングにも利用できることを明らかにした。
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