研究課題/領域番号 |
18K05108
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
荒川 幸弘 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (70709203)
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研究分担者 |
今田 泰嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (60183191)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フラビン / ペプチド / 酸化反応 / 不斉触媒反応 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、ペプチド鎖を有するフラビン分子(フラボペプチド)を計算化学の手法を用いて設計し、これを不斉触媒とする高エナンチオ選択的酸素添加反応を実現することである。この目的のために、第一に(i)従来型フラボペプチドを触媒とする均一系酸素添加反応を確立し、次いで(ii)新規フラボペプチド触媒による高立体選択的不斉酸素添加反応の開発へと研究を展開する段階的な実施計画を立てた。 令和1年度は、平成30年度に確立した(i)の適用範囲の拡大および一般性の評価、さらに(ii)の達成に向けて研究を進めた。前者の検討から開始したが、ロット毎の可溶性フラボペプチドの触媒活性が一致せず、この問題が触媒の純度に起因することが判明したため、触媒合成条件を再検討する必要が生じた。反応や精製工程の条件を種々検討した結果、高純度で活性再現性の高い可溶性フラボペプチド触媒の最適合成条件を確立することができた。一方、合成過程におけるペプチド鎖のエピマー化が懸念されたため、光学活性な原料を用いて合成したフラボペプチドと、ラセミ体のフラボペプチドを各種分光分析で詳しく解析したところ、上記最適条件下での合成過程において触媒のラセミ化は生じないことを明らかにした。また、4種のジアステレオマーを不斉合成し、酸素酸化触媒活性を評価することにより、フラボペプチドの立体化学が酸素酸化触媒活性に重要な影響を及ぼすことを明らかにした。これらの成果は、フラボペプチドの不斉触媒化を目的とする上記(ii)への展開に向けた有力な知見であり、国内学会2件および国際会議2件で発表した。 一方、上記(ii)に向けた予備実験で合成したN10位置換型アミノフラボペプチドが極めて高い反応量子収率でアルデヒドの光誘起α-オキシアミノ化を促進することを見出し、その成果を国際誌論文(Org.Lett.,2019,21,6978)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、実施計画において掲げた二つの具体的課題、すなわち(i)従来型フラボペプチドを触媒とする均一系酸素添加反応の確立および(ii)新規フラボペプチド触媒による高立体選択的不斉酸素添加反応のうち、(i)を達成している。令和1年度はフラボペプチド合成法の条件最適化に関する成果が主な研究実績として表面化したが、すでにこれらの知見を基に当初計画した不斉反応のための各種新規フラボペプチドの合成は着々と進んでおり、課題の最終局面に向けた準備は整いつつある。従って、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況を踏まえ、今後は実施計画に掲げた二つ目の課題、すなわち(ii)新規フラボペプチド触媒による高立体選択的不斉酸素添加反応の開発の実現に向けて、以下の計画[1]~[3]で研究を推進する方針である。 [1] フラビン環構造の7,8位が無置換のFl-Pro-Tyr-Asp-Ado-NH2を合成し、これまでに確立した均一系条件を基に芳香族スルフィドの酸化反応および3-アリールシクロブタノンのBaeyer-Villiger反応を検討し、不斉触媒能を明らかにする。 [2] Fl環のN10位に第二のペプチド鎖を有するフラボビスペプチドX'-AA3-AA2-AA1-Fl-Pro-Tyr-Asp-X(AA = アミノ酸残基; X, X' = C末端基)を設計する。任意のフラボビスペプチドについて計算化学の手法を用いて最安定配座を求め、目的に適った配列を決定後、これらを合成し、多様なスルフィドの酸化反応、各種シクロブタノン誘導体のBaeyer-Villiger反応における触媒活性を評価する。実際に第二のペプチド鎖が立体選択性に及ぼす影響を触媒設計にフィードバックし、必要に応じたアミノ酸残基の増減や側鎖官能基の微調整により、高立体選択的な不斉酸素添加反応を実現するフラボペプチド触媒を完成させる。 [3] 確立したフラボペプチド触媒による不斉酸素添加反応を生理活性化合物やその中間体合成に応用する。
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