研究実績の概要 |
本研究の目的は、計算化学の手法を用いてペプチド鎖を有するフラビン分子(フラボペプチド)を設計し、これを不斉触媒とする高エナンチオ選択的酸素添加反応を実現することであり、先ずフラボペプチドを触媒とする均一系酸素添加反応を確立し、次いで高立体選択的不斉酸素添加反応の開発へと展開する段階的な計画に基づき実施した。 <平成30年度> 可溶性フラボペプチドを触媒とするスルフィドの酸素酸化反応において、還元剤として2,3-ジヒドロ-2-フェニルベンゾチアゾールを用いることで反応が円滑に進行することを見出した。また、酸素酸化Baeyer-Villiger反応における酵素類似位置選択性を見出した(Chimia, 2018, 72, 866)。 <令和1年度> 適用範囲の拡大および一般性の評価において、ロット毎の可溶性フラボペプチドの触媒活性が一致せず、この問題が触媒の純度に起因することが判明したため、触媒合成条件を再検討する必要が生じた。反応や精製工程の条件を種々検討した結果、高純度で活性再現性の高い可溶性フラボペプチド触媒の最適合成条件を確立することができた。一方、不斉反応に向けた予備実験で合成したN10位置換型アミノフラボペプチドが極めて高い反応量子収率でアルデヒドの光誘起α-オキシアミノ化を促進することを見出した(Org. Lett., 2019, 21, 6978)。 <令和2年度> フラボペプチドの各種ジアステレオマーを不斉合成し、酸素酸化触媒活性を評価することにより、触媒の立体化学が触媒活性に強く影響することを明らかにした。また、触媒の立体化学と活性の相関を計算化学の手法により解明し、鍵活性種の安定化におけるペプチド鎖カルボキシ基の重要性を明らかにした。しかしながら、高度なエナンチオ制御の実現には至らなかった(Tetrahedron Lett., 2021, accepted)。
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