研究課題/領域番号 |
18K05109
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
西野 宏 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (50145281)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ジヒドロフラン-クリップ反応 / 大環状化合物 / シクロファン類 / 酸化的ラジカル反応 / スーパーファン / クリプタンド型大環状化合物 / UFOキャッチャー型分 / 分子フラスコ |
研究実績の概要 |
ベンゼン環側鎖として鎖状末端1,3-ジケトエステルが1~6個置換した化合物と末端アルケニルアルキル基が1~6個置換した化合物を合成し、我々が開発したジヒドロフラン-クリップ反応を用いて6個の側鎖がそれぞれジヒドロフラン環で繋がれたカゴ型のスーパーファン分子の一段階合成を目指す。平成30年度の研究として、ベンゼン環置換基側鎖に3個の鎖状末端1,3-ジケトエステルを置換した化合物を合成し、モノアルケンとのMn(III)触媒空気酸化反応を調べた。その結果、相当するトリポダンド型末端トリス(ジオキサン)化合物が得られた。続いて、このトリス(ジオキサン)化合物を用いて我々が開発した酸触媒ジオキサン環縮小反応にかけ、相当するトリポダンド型末端トリス(フラン)化合物へと誘導することに成功した。得られたトリス(フラン)化合物は各種分光学的方法および元素分析により構造決定することができた。これらの化合物はUFOキャッチャー型分子としての機能性が期待される。次に、1,3,5位に4-ヒドロキシ-2-オキソブチル基を置換したベンゼン誘導体とアセト酢酸エチルの縮合反応から合成した末端に3-オキソブタノイル基を持つテザー化合物と、1,3,5-トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼンと臭化アリル類から合成した末端アルケンが3個置換したテザー化合物を合成した。続いて、合成したこの2種類のトリス(ブタンジオン)とトリス(アルケン)をジヒドロフラン-クリップ反応にかけた。その結果、ジヒドロフラン環を介した相当するシクロファン型クリプタンドを一段階で合成することに成功した。生成物の構造はNMR、IRおよびMSスペクトルにより決定された。さらに生成物の収率向上を目指して、反応の最適化を行なった。特に、我々が開発した酢酸-ギ酸溶媒系を用いた反応を詳しく調べた。その結果、生成物の収率を向上することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が開発したジヒドロフラン-クリップ反応を行うにあたっての原料であるベンゼン環側鎖に鎖状末端1,3-ジケトエステルが置換したテザー化合物および末端アルケニルアルキル基が置換したテザー化合物の合成には多段階を要し、各段階の反応効率を上げるのに苦労している。まずはモノ置換のテザーベンゼン誘導体をそれぞれ合成し、ジヒドロフラン-クリップ反応を色々な条件で検討し、その有用性を確認した。続いて、ジ置換のテザーベンゼン誘導体をそれぞれ合成し、同様の反応にかけてジヒドロフラン環を介したシクロファン型マクロジオリド類の合成に成功した。さらに、トリ置換のテザーベンゼン誘導体をそれぞれ合成し、ついに1,3,5-トリ置換の [11,11,11]シクロファン型クリプタンドを一段階で合成することに成功した。Mn(III)酸化反応ではギ酸を添加することでジヒドロフラン化反応の効率が向上することを報告しており、その条件を適用することで、平成30年度に[11,11,11]シクロファン型クリプタンドの合成収率を向上するところまで成功した。これは半分のテザー置換基でつながれたカゴ型スーパーファン分子と考えることができ、研究計画に沿って概ね研究は進行していると言える。また、ベンゼンを窒素に変え、鎖状末端1,3-ジケトエステルが3つ置換したテザーアミン化合物および末端アルケニルアルキル基が3つ置換したテザーアミン化合物も合成し、ジヒドロフラン-クリップ反応を調べた。この反応でも、Mn(III)酸化反応を行なうにあたり酢酸-ギ酸系が有効に働き、ジヒドロフラン環を介した同様のクリプタンド類を一段階で合成することに成功した。現在、テザーの長さをもっと長くしたアミン化合物の合成に取り組んでいる。この原料合成の反応条件を詳しく調べ、最終的には複数のベンゼン環側鎖を持つテザー化合物原料の合成に応用していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ジヒドロフラン-クリップ反応は70℃以上で行なうため、基質のベンジル位やアリル位も酸化されやすい。そのため、基質の酸化分解が起こり、生成物収率の低下を招くことがこの反応の欠点である。我々はβ-ケトエステルとアルケンの酸化反応にギ酸を添加すると、反応速度が極端に加速され、ジヒドロフランの収率が向上することを発見した。また、この反応は室温で効率よく進行することもわかった。そこで、70℃以上で起こりやすい基質側鎖の酸化的開裂を防ぎ、生成物の収率改善を図るために、モノ置換やジ置換テザー化合物を用いてギ酸を添加する室温条件におけるジヒドロフラン-クリップ反応をさらに詳しく調べ、大環状化合物の生成を最適化する。次に、1,3,5-三置換テザー化合物を用いてカゴ状クリプタンド型大環状化合物の合成をさらに詳しく調べ、反応の最適化を行なう。続いて、テザーの長さをさらに長くした化合物をそれぞれ合成し、同様のジヒドロフラン-クリップ反応を調べる。最終的に1,2,3,4,5,6-六置換化合物を用いてスーパーファン分子の合成に挑戦する。カゴ型大環状化合物の合成はアミン系配位子による金属錯体を利用したイオン反応が主流であるので、この酸化的ラジカル反応によるカゴ型大環状化合物の合成が効率よく行えれば、新たなカゴ型化合物の合成法として利用できる。また、このジヒドロフラン-クリップ反応で得られるカゴ型大環状化合物にはラジカル反応を制御するためにジヒドロフラン環にフェニル基を置換している。そのため、フェニル基同士の立体反発が予想されるので、どこまでアルキル側鎖を短くできるかにも興味がある。さらに、この反応で得られるカゴ型化合物は比較的剛直な骨格と予想されるので、有機化合物をゲスト分子として包接させてその包接構造も観察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた試薬類を実際に購入した際に、割安の試薬やキャンペーン価格の試薬類が購入できた。また、いくつかの学会参加登録費を別予算の寄付金から出費したため、本科研費補助金の当該年度予算が19,229円あまり、次年度への繰越とした。繰越分は、次年度の元素分析料等に当てる予定である。
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