研究課題/領域番号 |
18K05112
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
齊藤 巧泰 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00758451)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 双性イオン / 脱炭酸反応 / 電子環状反応 / 不斉転写反応 / 転位反応 |
研究実績の概要 |
脱炭酸反応を起点とする双性イオン種の発生、およびこの活性種を用いた反応開発を前年度に引き続き行った。 (1) 脱炭酸型ナザロフ環化反応の応用研究: 前年度、ルイス酸条件にて、光学活性な環状エノール炭酸エステルから不斉転写反応により高い光学純度を有するシクロペンテノンが合成できることを見出していたが、今年度はその基質と生成物の立体化学の対応について調べ、反応機構の議論を行うとともに、生成物の誘導化についても検討した。原料のプロパルギルアルコールと生成物のシクロペンテノンの単結晶X線構造解析により、それぞれの絶対立体配置を決定したところ、時計回りの同旋的閉環で生成物が得られていることが分かった。また、生成物の誘導化を行ったところ、すべての構成炭素に不斉中心を持つ二環性シクロペンタノールを合成することが出来た。また、ルイス酸を用いる不斉転写において、一部の電子供与性基を持つ基質では著しい不斉転写率の低下が見られ、これについても解決法を画策した結果、基質を加熱するだけで反応が進むことを見出し、不斉転写率が大幅に改善された。 (2) 脱炭酸反応による新たな双性イオン種の発生に基づく反応開発: シクロプロピル基を導入した環状エノール炭酸エステルのホモナザロフ環化反応がレニウム錯体で触媒されることを既に見出していたが、基質一般性に問題があった。そこで触媒のスクリーニングを再度行い、数種の有効なルイス酸を見つけた。また、基質の相対立体配置についてもX線構造解析によって明らかにし、ジアステレオ選択性を議論した。環状炭酸エステルのセミピナコール型転位については、触媒のスクリーニングを行い、反応条件を確立した。この条件を用いて、基質一般性を調べ、ほとんどの基質で選択的転位が進むことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 脱炭酸型ナザロフ環化反応の応用研究: 不斉転写反応の原料と基質、および生成物は結晶化が難航したものの、誘導化などを検討し、重原子法を用いて単結晶X線構造解析によって絶対立体配置を決定することが出来た。これにより基質の立体化学を反映した遷移状態の制御により高い立体制御が起こっており、閉環過程が脱炭酸とともに閉環が起きる協奏的機構で起きていることを示唆する結果を得た。また、電子供与性基を有する基質では不斉転写率が著しく低下する問題があったが、反応機構を再考し、双性イオン等価体の安定化が問題であると考察し、酸触媒を加えない方針で検討を行ったところ、通常困難とされる熱的ナザロフ環化反応が驚くほど温和な条件で進むことを見出し、これについても別のテーマとして反応条件の精査と基質ごとの酸触媒の有無による不斉転写率の比較を行い、様々な位置に電子供与性基を導入した基質で、熱的条件がはるかに良好な不斉転写率で生成物を与えることを明らかとすることが出来た。 (2) 脱炭酸反応による新たな双性イオン種の発生に基づく反応開発: ホモナザロフ環化反応では、反応条件の再検討を行ったものの、その結果基質の構造に基づいた最適な触媒条件の再構築を行うことが出来た。また、これにより従来の反応条件では合成困難であった生成物を得るに至った。原料である多置換シクロプロピルアルコールの立体化学についても、結晶化に時間を要したが、代表的な原料数種について明らかにし、ジアステレオ選択性との対応について議論することが出来た。脱炭酸型ピナコール転位は、当初触媒条件を探索することに時間を要し、最終的に触媒化が困難であるとの結論に至ったが、この過程で最適な金属種を発見し、高収率かつ高選択的1,2-転位反応を開発することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 脱炭酸型ナザロフ環化反応の応用研究: 計画に基づき、ナザロフ環化反応の触媒的不斉合成を目指し、非対称化を利用した不斉合成反応の開発に取り組む。また、確立した手法を取り込んだ天然物合成に着手する予定である。このため、天然物の構造を意識したモデル化合物をまず合成し、この反応性を調べ、目的とする鍵反応の進行を確認しながら、計画を進めていく。 (2) 脱炭酸反応による新たな双性イオン種の発生に基づく反応開発: ホモナザロフ環化反応に関しては、一部収率の低下が起きる基質について反応条件の精査を行うとともに、ジアステレオ選択性の制御も行う。これについては配位子の添加など触媒のチューニングによって対応する計画である。脱炭酸型ピナコール転位反応においては、基質一般性の拡張を行う。また、転位選択性がセミピナコール転位様の傾向を持つことから、本反応は、脱炭酸と1,2-転位が協奏的機構を介して進行していることが予想され、これは不斉転写を調べることで議論できると考えられる。すなわち、光学活性な炭酸エステルを合成し、これを同様の条件下処理し、生成物の光学純度を調べる。まず、光学活性な基質の合成を行い、その反応について検討し、不斉転写率を調べる。また、基質と生成物の絶対立体配置を決定し、セミピナコール転位と同様に立体化学が反転するかどうかを見る計画であり、これによって反応機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
脱炭酸型ナザロフ環化反応の応用研究において、光学活性な基質の調達に分取用の光学活性カラムを用いる必要性が高いと判断し、当初予算を計上していたが、基質を化学的に不斉合成する方法を見出したため、その不斉合成のための光学活性試薬の購入に大きく予算を使用させていただいた。一方で、脱炭酸型ピナコール転位の研究では、新たに光学活性原料・基質を調製する必要性に直面しており、こちらは化学合成する方法を確立できていないため、今年度分取用の光学活性カラムを購入する予定である。
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