本研究で目的としているタンパク質逆スプライシング反応は、酵素によるトランスペプチダーゼ反応と、化学的なペプチド縮合反応を一つの反応系中で行うことによって達成できる。2018年度は、リシルエンドペプチダーゼ(LEP)によるトランスペプチダーゼ活性の検証と、ペプチド縮合反応の一種であるNative Chemical Ligation (NCL)反応が同じ反応条件で進行するかの確認を行った。2019年度はその検証結果をふまえ、短鎖ペプチドをモデルとして、タンパク質逆スプライシング反応が実際に進行することを確認した。2020年度は、2019年度の結果をふまえて、実際にどのようなアミノ酸配列で反応が進みやすいかの詳細な検討を行った。Lys-Cys配列を含む基質に対し、種々の挿入配列を用意し、LEPを触媒として反応を試みた。その結果、挿入配列のN末端は立体障害が大きい側鎖を有するアミノ酸のときに収率が向上する傾向が見られた。これは、LEPがLysのC末端に側鎖が大きいアミノ酸があると生成物自身のLEPによる分解反応が抑制されるためだと考えられる。一方、挿入配列のC末端はGlyのような側鎖が小さいアミノ酸の方が反応しやすい傾向が見られた。これは、NCL反応が進行しやすいことが主な要因と考えられる。しかし、いずれの場合でも、収率は非常に低く、単離収率が2%を超えることは無く、この方法が実用的なタンパク質調製法になる可能性を見出すに至らなかった。その原因として、水を完全に除去しても反応が進行するような溶媒系を見つけられなかったことが考えられる。今後、加水分解を抑制するような酵素の変異体の開発できれば、この問題を解決できるものと考えられる。
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