研究課題/領域番号 |
18K05122
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
浦 康之 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (40335196)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルデヒド / パラジウム触媒 / 脂肪族アルケン / 逆マルコフニコフ選択性 / ワッカー型酸化 / 酸素 / 塩化銅 / ベンゾキノン |
研究実績の概要 |
脂肪族末端アルケンのワッカー型酸化反応では,ほとんどの場合においてケトン(マルコフニコフ型生成物)しか得られない。我々は,パラジウム/銅触媒存在下,t-ブチルアルコール溶媒中,基質として脂肪族末端アルケン,酸化剤として1気圧の酸素およびp-ベンゾキノンを用い,40 ℃の穏和な条件下において,逆マルコフニコフ型生成物であるアルデヒドを選択的に得ることに成功した。1-オクテンなどの官能基を持たない単純な脂肪族末端アルケンの場合には,反応溶液に対してシリンジポンプでゆっくりと添加することによってアルケンの内部異性化が抑制された。逆マルコフニコフ選択性(アルデヒド選択性)の向上にはパラジウム触媒に加えて塩化銅(I)とp-ベンゾキノンの添加が不可欠であった。DFT計算によって,塩素架橋パラジウム(II)-銅(I)二核錯体が触媒活性種である可能性が示唆された。p-ベンゾキノンは0価パラジウムの酸化剤としての役割に加えて,塩素架橋パラジウム(II)-銅(I)二核錯体において銅に配位して金属上の電子密度を低下させ,パラジウムに配位した脂肪族末端アルケンに対する酸素求核剤の求核攻撃の段階を促進し,また,マルコフニコフ経路よりも逆マルコフニコフ経路の安定化により大きく寄与すると推定された。4-ブロモ-1-ブテンなどのハロゲンをもつ脂肪族末端アルケンを用いた場合には,ハロゲンが配向基として機能して高い逆マルコフニコフ選択性が発現した。 脂肪族末端アルケンの逆マルコフニコフ型ワッカー型酸化は困難な課題であり学術的にも興味深いが,本反応ではシンプルな触媒系(PdCl2(MeCN)2/塩化銅(I)/p-ベンゾキノン)の適用によって実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪族末端アルケンからの触媒的な末端アセタール合成反応に加えて,本研究における開発目標の一つである脂肪族末端アルケンの逆マルコフニコフ型ワッカー型酸化によるアルデヒド合成反応を開発することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪族末端アルケンの逆マルコフニコフ型ワッカー型酸化反応を開発出来たが,今後に改善すべき点としては以下の4つが挙げられる。1)現状では1-オクテンなどの単純な脂肪族末端アルケンの場合には末端酸化剤として分子状酸素を用いることができない(p-ベンゾキノンが末端酸化剤として働く)。2)単純な脂肪族末端アルケンでは逆マルコフニコフ選択性のさらなる向上が必要である。3)基質によっては過剰酸化が進行してα,β-不飽和アルデヒドが生成してしまう。4)触媒活性(TOF,TON)のさらなる向上が必要である。いずれも困難な問題点であるが,今後のさらなる条件検討によって,特に適切な助触媒を見出すことによって改善してゆける可能性がある。ヒドロホルミル化を代替し得る脂肪族末端アルケンからの効率的かつ環境低負荷なアルデヒド合成反応の開発は工業的にも極めて重要であり,その実現に向けて検討を重ねたい。また,これまでは一置換の脂肪族末端アルケンを基質として用いていたが,基質適用範囲の拡大を目指して二置換アルケンに適用可能な反応を開発したい。 脂肪族末端アルケンからの直鎖エナミン合成についてはまだ実現できていない。これまでに開発した末端アセタール合成とアルデヒド合成において得られた知見に基づき,求核剤としてt-ブチルアルコールなどの酸素求核剤に代えて適度な嵩高さと求核性を備えた第二級アミンやアミドなどの窒素求核剤を用いることによって逆マルコフニコフ選択的に進行する可能性があり,この反応についても検討を行いたい。
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