研究課題/領域番号 |
18K05123
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
坂倉 彰 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80334043)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不斉触媒 / ルイス酸触媒 / 付加反応 / α-ケトエステル |
研究実績の概要 |
アミノ基やヒドロキシ基が連続して結合した鎖状の炭素骨格は,アミノグリコシド系抗生物質やアミノ糖類の基本構造である。これらの構造を立体選択的に化学合成する新しい方法が求められている。本研究では,その合成法の一つとして,α-ケトエステルの立体選択的な付加反応を鍵工程とする合成経路を立案した。 研究代表者は,これまでに,様々な炭素-炭素結合形成反応を立体選択的に促進することができるキラルなルイス酸触媒や有機分子触媒を開発してきた。これらの中には,その触媒の作用機構を考察すると,α-ケトエステルを活性化し,その付加反応を立体選択的に促進することができると期待されるものが存在する。そこで本研究では,研究代表者が開発したルイス酸触媒や有機分子触媒を活用する複数のアプローチを考案し,α-ケトエステルを基質とする立体選択的な付加反応の開発を行う。具体的には,1.α-ケトエステルとイミンとの不斉Mannich反応の開発,および,2.α-ケトエステルに対する炭素求核剤の不斉付加反応の開発を行う。これらの不斉反応を開発することにより,アミノ基やヒドロキシ基が連続して結合した鎖状の炭素骨格を立体選択的に化学合成する方法の開発を目指す。開発の中心となるのは,ルイス酸触媒や有機分子触媒を反応に合わせて精密設計することである。触媒の機能のみならず,基質の保護基の構造なども最適化して反応遷移状態の立体配座を制御することにより,望みの立体選択性の発現を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.α-ケトエステルとイミンとの不斉付加反応の開発 α-ケトエステルとイミンとの不斉Mannich反応を開発することを目的として,様々なルイス酸触媒,特にキラルなビスオキサゾリン配位子をもつ銅(II)触媒の活性を検討したところ,研究代表者が独自に開発したキラル銅(II)触媒が最も優れた活性を示し,Mannich付加体が良好な収率とエナンチオ選択性で得られることを見出した。触媒の対アニオンとして,トリフラートを用いるとジアステレオ選択性が20:1以上に向上した。α-ケトエステルと反応させる相手となるイミンの保護基としては,反応性の点でノシル基が最適であった。ノシル基は,除去が容易であるため,合成化学的な有用性も高い。さらに,Mannich付加体のα-カルボニル基を還元したところ,三連続不斉中心を持つγ-アミノ-α-ヒドロキシエステルが単一のジアステレオマーとして得られた。今回開発された不斉合成反応は,鎖状アルカロイドの不斉合成法として有効であると言える。 2.α-ケトエステルに対する炭素求核剤の不斉付加反応の開発 研究代表者が独自に開発したキラルルイス酸触媒を用いて,α-ケトエステルに対するアリルシランの不斉付加反応の検討を行い,α,α-二置換-α-ヒドロキシエステルを高収率かつこうエナンチオ選択的に合成する方法を開発した。本研究成果は,論文として報告した。
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今後の研究の推進方策 |
1.α-ケトエステルとイミンとの不斉付加反応の開発 基質一般性の検討を行う。さらには,他のルイス酸触媒や有機分子触媒を活用することにより,複数のジアステレオマーを作り分ける方法の開発へと展開する。 2.α-ケトエステルに対する炭素求核剤の不斉付加反応の開発 α-ケトエステルに対してα-ニトロエステルやα-イミノエステルを立体選択的に付加させた後,エステル基に対する炭素求核剤の不斉付加反応を行うと,アミノ基とヒドロキシ基が結合した三連続不斉炭素構造を構築することができる。そこで,グリオキシ酸エステルに対する付加反応の工程を立体選択的に促進する方法を開発する。具体的には,研究代表者が開発したキラルルイス酸触媒や,三級アミノ基と多価ブレンステッド酸部位とを同一分子内に組み合わせたキラルな有機分子触媒を用いて検討する。
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