研究課題/領域番号 |
18K05126
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
石原 淳 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 教授 (80250413)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヘテロDiets-Alder 反応 / 触媒反応 / ルイス酸テンプレート / 天然物合成 |
研究実績の概要 |
申請者は、過去にルイス酸テンプレート触媒によるDiels-Alder反応を見出した。この反応は、光学活性な多置換二環性ラクトンを高収率かつ高立体選択的に与える。本研究では、このルイス酸テンプレート触媒に基づく種々のキラル多官能基化環状化合物を合成法の開発を目的とし、研究に着手した。今年度は多官能基化環状化合物を有する生物活性天然物への応用展開を行なった。イグジグオリドは奄美大島産の海綿から単離構造決定された多官能基化環状天然物である。その骨格中に2つのテトラヒドロピラン(THP)環と7つの立体不斉中心を有する20員環マクロリドであり、肺がん細胞に対して強力な増殖抑制活性を示す。シロキシペンタジエノールとアルデヒドをルイス酸テンプレート触媒で反応させたところ、収率64%でヘテロDiels-Alder生成物を与えたが、立体選択性は乏しかった。そこでIr触媒にて不斉アリル化し、光学的にほぼ純粋なジオール体を合成し、分子内Prins反応にて、立体選択的に望むTHP体を得た。本THP体は収率良くアルデヒド体に変換可能であった。一方、我々は不斉有機触媒による[2+2]環化付加反応の有用性を見出している。そこで、不斉有機触媒TMS-QN触媒下、入手容易なアルデヒドケテンとの[2+2]環化付加反応を行い、高エナンチオ選択的に鍵中間体を得た。本化合物をJohnson-Claisen転位等を経て、効率的にホスホン酸ジエステルへ変換し、先のアルデヒド体とのHWE反応により結合した後、シラン還元、山口マクロラクトン化等を経て、マクロリドを合成した。さらに、末端アルキンのスタニル化、Stilleカップリングにより(E,Z,E)-トリエンを導入し、イグジグオリドの全合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に基づき、研究を実施した結果、以下のような成果が得られた。 1 触媒的ルイス酸テンプレートを用いるヘテロDiels-Alder 反応によるキラルジヒドロピランおよびジヒドロピラジンの構築;4-シロキシ-2,4-ペンタジエノールとベンズアルデヒドとのヘテロDiels-Alder 反応を検討した。種々のルイス酸テンプレートを検討したところ、最終的にオクタヒドロビナフトールを用いて行うと、収率76%、er 89:11 でシス置換ジヒドロピランが得られることを見出した。本反応は光学収率に問題はあるものの,短工程で種々のヘテロ環形成が可能なことが大きな魅力である。 2 多官能基化環状化合物を有する生物活性天然物イグジグオリドの合成を行った。Ir触媒による不斉アリル化、分子内Prins反応、不斉有機触媒による[2+2]環化付加反応を駆使し、重要中間体を得た。さらに山口マクロラクトン化、Stille カップリングを経て、イグジグオリドの全合成を達成した。本合成は既知の合成方法の中で、最長直線経路が最も短く、また全収率も最も高く、効率の優れた合成経路である。
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今後の研究の推進方策 |
ヘテロDiels-Alder反応が選択的に進行することが判明し、生物活性天然物イグジグオリドの全合成も達成できた。これまでの成果に基づき、さらなる生物活性天然物合成へ展開を行う。 1 ジヒドロピラジンの不斉触媒合成法の確立;4-シロキシ-2,4-ペンタジエノールとベンズアルデヒドとジエチルアゾジカルボン酸(DEAD) の反応では収率57%, er 87:13でジヒドロピラジンが得られることを見出しているが、本反応は光学収率に問題があり、反応の触媒化にも成功していない。そこで、ジヒドロピラジンの不斉触媒による合成方法の確立を行う。 2 ピペラジマイシンAの合成;ピペラジマイシンAはその骨格中に3個の置換ピペラジン酸を有し、強力な細胞毒性を持つことから抗がん剤のリード化合物として注目される。触媒的ルイス酸テンプレートを用いるヘテロDiels-Alder反応を用いれば、ピペラジマイシンA中に存在する3つの置換ピペラジン酸が容易に合成可能と考えられる。そこで、前述のジヒドロピラジンの不斉触媒合成法を駆使し、短工程で置換ピペラジン酸を合成する。さらに順次ペプチド結合し、大環状骨格を構築し、ピペラジマイシンAの合成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究が順調に進み、効率的に研究が進んだ結果、少額ではあるが、差額が生じた。次年度に新たな天然物合成を行うために、高価な試薬の購入も必要となるので、次年度に使用する計画である。
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