研究課題/領域番号 |
18K05130
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
高取 和彦 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (30231393)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 環拡大反応 / 1,2-転位反応 / ヨウ化サマリウム / エポキシドーケトンカップリング / Ti反応剤 / ラジカル反応 / コリンエステラーゼ阻害活性 / アルツハイマー病治療薬 |
研究実績の概要 |
本年度は特に次の2点について重点的に検討した。 1) 希土類元素の誘起する一電子還元を起点としたメチレンシクロブチルケトンの環拡大1,2-転位反応の進展とα-(オキシメチル)シクロブタノンの環拡大反応の開発:環外にカルボニル基を持つ基質 1-(7-methylenebicyclo[3.2.0]heptan-1-yl)ethan-1-one (1) 類を用いて環拡大1,2-転位反応を検討した。その結果、反応は基質の構造によって左右され、1ではSmI2-Bu4NBr-HMPAの条件で良好な収率で転位生成物を与えたが、3位にジメチル基を導入すると収率が低下し、3位がスピロシクロプロパン構造になると目的物はほとんど得られなかった。検討の結果、これはカルボニル基の回転が阻害され、オレフィン部との軌道の重なりが悪くなるためと考えられた。したがって、本反応では反応条件のみならず基質のカルボニル基の配座も考慮する必要がある。 2) Sm-Ti複合反応剤による分子内エポキシド―エポキシド、エポキシド―ケトンカップリング反応の開発およびコリンエステラーゼ阻害活性物質マルスペリンAの合成研究:ビニリックな側鎖を備えた6員環ラクトンのIreland-Claisen転位、SmI2による新規なアルキルクロリドと酸塩化物の分子内カップリングで6/7員環ケトンを合成した。6員環部のオレフィンを酸化してエポキシド―ケトンを合成した。そのカップリング反応を種々の条件で検討したところSm-Cp2TiI2複合反応剤が有効であった。得られたtricyclo[5.4.0.0^2,8]undecane-2,9-diolはアルツハイマー病治療薬として期待されるマルスペリンAの合成中間体として期待できる。この成果はTetrahedron Letters誌に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 希土類元素の誘起する一電子還元を起点としたメチレンシクロブチルケトンの環拡大1,2-転位反応の進展とα-(オキシメチル)シクロブタノンの環拡大反応の開発:当初期待していたSm-Ti複合反応剤はこの反応には有効ではないことがわかり、当初の計画ほどの進捗はみられていないが、カルボニル基の配座を考慮する必要があることが判明し一歩前進した。 2) 一電子還元による連続環化反応と環拡大1,2-転位反応を駆使したカウラン類の合成研究:CD環部の合成を完了した。続けてABラクトン環部合成に必要な側鎖の構築を検討し、その見通しが立った。 3) 環拡大1,2-転位反応、酸化的アリル転位反応の繰返しによる抗菌活性化合物ヒプノフィリン合成法の開発:モデル実験としてジメチル基を備えない基質で合成を進め、環拡大1,2-転位反応、酸化的アリル転位反応でジキナンまで合成できたが、3環目はメチレンシクロブタンの環拡大1,2-転位では達成できなかった。当初の計画に回避策として示したα-(オキシメチル)シクロブタノンの一電子還元による環拡大反応を開発する必要がある。 4) Sm-Ti複合反応剤による分子内エポキシド―エポキシド、エポキシド―ケトンカップリング反応の開発およびコリンエステラーゼ阻害活性物質マルスペリンAの合成研究:エポキシド―ケトンカップリング反応の開発を開発しマルスペリンA合成中間体を合成できた。一方で、分子内エポキシド―エポキシドカップリングは良好な結果を与えていない。しかし、これとは異なる新たなカップリング反応を見出しており、これを利用してマルスペリンA全合成の目前まで来ている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 希土類元素の誘起する一電子還元を起点としたメチレンシクロブチルケトンの環拡大1,2-転位反応の進展とα-(オキシメチル)シクロブタノンの環拡大反応の開発:メチレンシクロブチルケトンのカルボニル基の配座を制御できる補助基を近傍の水酸基に配置して転位反応を試みる。SEM基やMOM基などの配位性置換基、あるいはTBS基など嵩高い置換基を導入する。 2) 一電子還元による連続環化反応と環拡大1,2-転位反応を駆使したカウラン類の合成研究:CD環部の合成を完了し、AB環部合成に必要なカルボニル基、α,β―不飽和エステル、エステルを備えた側鎖を構築し、鍵段階のSmI2による連続環化反応に付して一挙にABラクトン環部を構築し、最後にアリル位を酸化して15-オキソゾアパトリンの合成を達成する。 3) 環拡大1,2-転位反応、酸化的アリル転位反応の繰返しによる抗菌活性化合物ヒプノフィリン合成法の開発:3環目の構築に際して、当初の計画に回避策として示したα―(オキシメチル)シクロブタノンの一電子還元による環拡大反応を開発する。一電子還元としてSmI2を用い種々の条件を検討する。まず原料調製が容易なジメチル基のない化合物でモデル実験を行ない、最終的にジメチル基を備えた原料から合成を進め、ヒプノフィリンの合成を完了する。 4) Sm-Ti複合反応剤による分子内エポキシド―エポキシド、エポキシド―ケトンカップリング反応の開発およびコリンエステラーゼ阻害活性物質マルスペリンAの合成研究:エポキシド―ケトンカップリング反応の開発を開発しマルスペリンA合成中間体を合成できた。しかし、ここからマルスペリンA合成に必要なC1単位の導入に難航している。一方で、シアノヒドリン誘導体のTi反応剤による新規なカップリング反応を見出したので、これを利用することでマルスペリンAの全合成を達成できる。
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