研究課題/領域番号 |
18K05133
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
田辺 陽 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30236666)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クライゼン縮合 / 不斉クライゼン縮合 / 四塩化チタン / 四塩化ジルコニウム / 脱水型チタン=クライゼン縮合 / ホルミル化反応 / ドミノ反応 / フラノンアヌレーション反応 |
研究実績の概要 |
Claisen 縮合は教科書有機化学である.しかし従来塩基法の反応性は類型のアルドール反応と比べ著しく低く,従ってその適用範囲は極めて限られていた. TiCl4, ZrCl4 などのルイス酸を用いる Claisen 縮合は温和かつ非常に強力で,しかも交差型反応,不斉反応も可能である.申請者らはこの分野の端緒から研究をリードしてきた.その一部は Organic Syntheses 誌に開発経緯のレヴューとともに再現性有る実験手法を掲載している.実際,Corey 教授や Merck 社にて本反応は活用された. この背景に基づき,すでに脱水型Ti-Claisen 縮合ならびにその cross-coupling 反応基質への展開,天然物 Strobilurin A の短段階合成への応用を達成した.また,ラクチドテンプレート法による alternalic acid や azaspiren のような多不斉中心鎖状,環状化合物の短段階不斉全合成にも成功している.関連する触媒的不斉向山アルドール反応という重要テーマにおいても,podoblastin の短段階不斉全合成を行い,その一部は Organic Syntheses 誌に投稿審査中である. 今後,次世代の Ti(Zr)-Claisen 縮合, Ti(Zr)-Dieckmann 縮合ならびにその関連反応,特にドミノ型・タンデム型 multi-component 反応による不斉合成反応および脱水型反応の開発を実施する.さらには,有用性を示すため,生理活性(天然)物質・特異分子合成への短段階効率的合成への応用を開拓する.開発者として他の追随を許さない姿勢で臨む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.不斉Ti-Claisen/aldol ドミノ型反応の開発:キラル鎖状連続中心の形成 入手容易なキラルプール(乳酸,酒石酸,アミノ酸由来アルデヒド)を出発源とし,不斉補助剤・不斉反応剤・不斉触媒を一切使用しないワンポット・ドミノ型反応にて多不斉中心を一気に構築するユニークで実用的な方法論である.3~5連続不斉鎖状化合物が非常に簡便に合成できる.現在,20 例;61-95% を達成している.絶対立体配置は X 線にて決定できた.チオエステルのさらなる官能基変換を行い,トップジャーナルへの投稿準備中である.同様の不斉 Ti-Claisen/Mannich ドミノ型反応にて,キラルなアミノアルコールを一気に構築する.応用展開として天然ポリケチド抗生物質の鍵中間体の短段階・効率的不斉合成を達成する. 2. Zr-Claisen/aldol タンデム型・ドミノ型反応の開発:キラル鎖状連続中心の形成 ZrCl4 を用いると TiCl4 とは異なるプロファイルが見られる.実際,ギ酸エステルとの反応では脱水型でなくホルミル化が高選択的に進行する.単純エステルの一炭素増炭反応(ホルミル化)は Organic Syntheses 2016 にレビューしたように,医薬・天然物合成における基本構築単位として重要である.最近,α-ヘテロ原子置換プロパン酸エステルを用いると,タンデム型 Zr-Claisen/aldol 反応またはドミノ型 Zr-Claisen/aldol 不斉反応が進行することを見出した.研究期間内で基質一般性の確立を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
<進捗状況の理由>で述べた内容に加え,以下の 3, 4 を平行しながら推進方策とする. 3. 不斉 Ti-Claisen 縮合の合理化:ラクチド・テンプレート法の開発 光学活性 α-ヒドロキシ置換カルボン酸は有用なキラルユニットである.すでに,二量体であるラクチドを用いる不斉 Ti-Claisen 縮合を報告した.応用として (-)-alternaric acid および azaspirene の不斉全合成を達成した (CC 2013, EJOC 2016).しかし,本ラクチドは調整法がやや面倒である.つまり現状では他グループによる利用は困難といえる.そこで,C2 対称性を有すキラルラクチド B は安価で両対掌体とも入手容易である点に着目した.一方のみをアシル化する効率的 不斉 Ti-Claisen 縮合を開発し,ユーザーフレンドリーな方法を目指す. 4. Ti-直接フラノンアヌレーション反応による多置換 2-(5H)-フラノン類の効率的合成 すでに本反応を見出し,天然香料「ミントラクトン」「メントフラン」の最短段階,最高通算収率の全合成を行った(JOC 1988, CC 2001, Molbank 2016).本手法はテルペン系天然物の全合成に他グループによって実際利用されている(例:Mehta, TL 2015 x 2).今後,cross-coupling 反応基質,医薬中間体の合成,さらにはフリーリンギン類縁体の最短段階全合成へ展開する.なお,cross-coupling 反応に関して,申請者らは最近,関連別テーマとして相応の蓄積がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の成果報告のため,学会発表の旅費として使用する予定である.
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