研究実績の概要 |
Claisen 縮合は教科書有機化学である.しかし従来塩基法の反応性は類型のアルドール反応と比べ著しく低く,従ってその適用範囲は極めて限られていた.TiCl4, ZrCl4 を用いる Claisen 縮合は温和かつ非常に強力で,しかも交差型反応,不斉反応も可能である.申請者らはこの分野の端緒から研究をリードしてきた.その一部は Organic Syntheses 誌に開発経緯のレヴューとともに再現性有る実験手法を掲載している.実際,Corey 教授や Merck 社にて本反応は活用された. この背景に基づき,すでに脱水型Ti-Claisen 縮合ならびにそのcross-coupling 反応基質への展開を図っている.天然物Strobilurin Aの短段階合成への応用を行い,すでに複数のグループが,天然物全合成,医薬,医薬中間体の合成に利用しており,これらの一部はOrganic Syntheses 誌に投稿審査中であり,現在,Account(invited)を作成中である. さらに,ラクチドテンプレート法によるalternalic acid やazaspiren のような多不斉中心鎖状,環状化合物の短段階不斉全合成にも成功している.関連する触媒的不斉向山アルドール反応という重要テーマにおいても,podoblastin,加えて 関連するpestalotin 類の全4種立体異性体の短段階キラル全合成を達成した. 今後も,次世代の Ti(Zr)-Claisen 縮合, Ti(Zr)-Dieckmann 縮合ならびにその関連反応,特にドミノ型・タンデム型 multi-component 反応による不斉合成反応および脱水型反応の開発を実施する.さらには,有用性を示すため,生理活性(天然)物質・特異分子合成への短段階効率的合成への応用を開拓する.開発者として他の追随を許さない姿勢で臨む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.Ti-Claisen縮合は従来多段階を要した1-ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの短段階合成に応用できる(OS, 2016).この知見を活かして二不斉中心シクロプロパン新規ピレスロイドの創生と短段階合成を行った.申請者はすでに二,三置換中心シクロプロパン新規ピレスロイドの創生を幾つか報告してきた.本論文では既報と異なりシンプルな不斉合成で可能であった.殺虫活性試験にて明瞭なキラル認識が発現することを認めた. 2.1. の関連研究として,ピレスロイド殺虫剤のルーツである天然ピレトリン計6種の完全キラル全合成を達成した.詳細な物性を明らかにし,殺虫活性評価,合成法の評価を行った.包括的内容を全16ページ のフルペーパーにまとめた.合成法探索では幾つかの方法を比較し最良の方法を選別した.殺虫活性は,ピレトリン>シネリン>>ジャスモリンであり,加えて明瞭なキラル認識を示した.ピレスロイド化学の懸案のミッシングリンクに有意義な解答を与えることが出来た. 3.不斉Ti-Claisen縮合に関連する触媒的不斉Mukaiyamaアルドール反応を活かして,2連続不斉中心を有す天然物Pestalotinならびに立体異性体全4種の不斉全合成を達成した.4異性体の完全合成はKenji Mori らについで2例目であり,工程数はかなり短縮し通算収率も向上した. 4.Ti-Claisen縮合を活かして得られる (E)-, (Z)-α-クロロ-β-トシロキシ-α,β-不飽和エステルを基質とし,逐次段階的クロスカップリング反応を用いる多置換(E)-, (Z)-α,β-不飽和エステルの立体補完的合成を達成した.一段階目と二段階目の精密な反応条件をチューニングし,高い官能基選択性と立体補完性を可能にした.鈴木・宮浦だけでなく薗頭,溝呂木・Heck, Buchwald-Hartwig 反応も可能である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年では以下の研究を推進する.1. 不斉Ti-Claisen/aldol ドミノ型反応の開発:キラル鎖状連続中心の形成反応:入手容易なキラルプール(乳酸,酒石酸,アミノ酸由来アルデヒド)を出発源とし,不斉補助剤・不斉反応剤・不斉触媒を一切使用しないワンポット・ドミノ型反応にて多不斉中心を一気に構築するユニークで実用的な方法論を展開中である.3~5連続不斉鎖状化合物が非常に簡便に合成できる.現在,20 例;61-95% を達成している.絶対立体配置は X 線にて決定できた.チオエステルのさらなる官能基変換を行い,同様の不斉 Ti-Claisen/Mannich ドミノ型反応にて,キラルなアミノアルコールを一気に構築する.応用展開として天然ポリケチド抗生物質の鍵中間体の短段階・効率的不斉合成を目指す. 2. Zr-Claisen/aldol タンデム型・ドミノ型反応の開発(ア)キラル鎖状連続中心の形成:ZrCl4 は TiCl4 とは異なるプロファイルが見られる.単純エステルの一炭素増炭反応(ホルミル化)は OS 2016 にレビューしたように,医薬・天然物合成において重要である.最近,α-ヘテロ原子置換プロパン酸エステルを用いると,掲題の反応が進行することを見出し,基質一般性の確立を目指す. 3. Ti-直接フラノンアヌレーション反応による多置換 2-(5H)-フラノン類の効率的合成:すでに天然香料「ミントラクトン」「メントフラン」の最短段階,最高通算収率の全合成を行った(JOC 1988, CC 2001, Molbank 2016).本手法は天然物の全合成に他グループによって実際利用されている.今後,cross-coupling 反応基質,医薬中間体の合成へ展開する.なお,cross-coupling 反応に関して,申請者らは最近,関連別テーマとして相応の蓄積がある.
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