研究課題/領域番号 |
18K05136
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
岡崎 雅明 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (20292203)
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研究分担者 |
清野 秀岳 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (50292751)
是永 敏伸 岩手大学, 理工学部, 教授 (70335579)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反応場構築 / 元素化学 / 有機金属錯体 / カルボカチオン / シライミン / シランチオン |
研究実績の概要 |
本研究では、昨年度までの実績を基に引き続き、炭素および後周期主要族元素を活性点とする反応場の構築に以下の通り、取り組んだ。 四鉄骨格上で準安定化された陽イオン性炭素種[CCH]+を用いた反応場の構築:昨年度において、四鉄骨格上で準安定化された陽イオン性炭素を活性点として、Diels-Alder反応等を触媒的に進行させることに成功した。その過程において、陽イオン炭素のルイス酸性と立体的環境を制御する必要性が生じ、2020年度はこれらの課題に取り組んだ。これまでの四鉄骨格では+1価の正電荷が局在化していたが、電気的に中性な四鉄骨格上において陽イオン性炭素種[CCH]+の発生方法の確立に取り組み、発生させた炭素活性点は十分なルイス酸性を有していることを明らかにした。また、四鉄クラスターにおいて多点官能基導入方法の開発に取り組み、立体的環境の制御を行った。 シライミン配位チタン錯体における電子的および立体的要因制御:これまで、シライミン配位チタン錯体では、支持配位子としてPMe3を用いてきた。2020年度においては、チタン-ケイ素-窒素反応場の電子的および立体的要因の制御を目的として、円錐角の大きいPMe2Phを導入した。チタン-ケイ素間へ挿入する2つの基質との反応により検証した。アセトニトリルでは反応速度に違いが見られなかったが、ピリジンとの反応では、反応速度が大きく低下した。このことから、反応場の活性は支持配位子として導入するホスフィンにより制御できることが明らかとなり、基質選択性の観点から興味深い結果といえる。 シランチオンを配位子としてもつイリジウム錯体の反応性:昨年度の結果に基づき、種々のイソシアニドとの反応を検討し、Ir-Si結合が不均等開裂することで、双性イオン型錯体が生成する反応の一般性を明らかにした。生成した錯体のDFT計算により、双性イオン型構造の妥当性を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の柱は以下のとおりとなる。 1.遷移金属上で準安定化された陽イオン性炭素種の創成と機能開拓 2.遷移金属上で準安定化された後周期主要族元素含有化合物の創成と反応場としての応用 1については、2019年度までに既知反応をプローブ反応として用いて触媒反応場への展開まで達成した。しかし、反応場として活性が高すぎ、触媒の失活が課題となり、その点の克服に2020年度に取り組んだ。方向性は示せたものの、さらなる検討が必要な状況にある。 2については、遷移金属、ケイ素、硫黄、窒素等を構成元素とする三員環反応場において、構成元素の協同効果に基因する種々の興味深い反応性の発見に成功した。得られた生成物の構造決定においては、単結晶X線構造解析装置による測定が必要不可欠であるが、2020年度途中において学内の共用機器が一定期間、故障のため使用できず、研究の推進に遅延が生じた。なお、本装置は2020年度中に修理が完了している。また、得られた反応を基に、触媒反応への展開を見据えて、捕捉した基質の化学修飾等にさらに取り組んでいく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の柱は上述のとおり、以下のとおりである。 1.遷移金属上で準安定化された陽イオン性炭素種の創成と機能開拓 2.遷移金属上で準安定化された後周期主要族元素含有化合物の創成と反応場としての応用 1については、カルベニウムイオンを遷移金属上で準安定化させることで、ルイス酸触媒として作用することを示した点で本研究課題は一定の成果を挙げたといえる。しかしながら、本反応場の特徴を活かした触媒反応の開発には至っておらず、陽イオン性炭素周りの電子的および立体的環境の精密制御に引き続き取り組む必要がある。その上で、遷移金属上で準安定化されたカルベニウムイオンでしか達成できない、新規性の高いルイス酸触媒の開発に取り組みたい。 2については、遷移金属および2つの主要族元素からなる三員環反応場において、元素間協同効果により不活性小分子の捕捉活性化に成功した点で、本研究課題は一定の成果を挙げたといえる。今後の課題としては、同反応場において、捕捉した基質の化学修飾と官能基化した基質の放出段階にあり、引き続き同課題に取り組む必要がある。これらの点は有機触媒反応を専門とする研究者との共同研究等により解決していきたい。将来的には、クラーク数の大きい遷移金属は用いず、主要族元素のみを用いた反応場の開発を今後のさらなる課題としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度参加予定であった学会およびシンポジウムがすべてオンライン開催となり、想定していた旅費がすべて未消化となった。また、新型コロナウィルスの影響により、4月当初は研究室での活動が制限され、6月以降も、三密対策を講じた上での活動となり、想定していた消耗品においも、一部未消化となった。 生じた残額については、貴金属(イリジウム等)、結晶構造データベース、脱水溶媒など消耗品の購入、実験・測定機器のメンテンナスに使用する予定である。
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