研究課題/領域番号 |
18K05140
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安部 聡 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (40508595)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多角体 / タンパク質結晶 / カスケード反応 |
研究実績の概要 |
本研究は、極めて高い安定性をもつタンパク質結晶を複数の金属錯体の反応場として利用し、カスケード反応を触媒する人工金属酵素の創製を目指している。平成30年度は、細胞内で形成される多角体結晶を用いて、アミノ酸置換や欠損により、多角体内部に金属錯体を固定化する反応場空間と基質の輸送や拡散を促進するための細孔空間を構築した。既に報告されている野生型の結晶構造(PDB ID:2OH6)をベースに多角体の分子界面に存在するペプチドフラグメント領域を遺伝子工学的手法により欠損し、結晶内部に細孔空間を構築した。具体的には、L4ループに存在するアミノ酸残基を欠損した変異体ににヒスチジン残基を置換導入し、金属結合部位を構築した。これら変異体の構造は、大型放射光施設SPring-8の微小結晶用のビームライン(BL32XU)を用いて構造解析した。今後、金属錯体との複合化を試み。 また、カスケード反応を触媒する多角体結晶の創製を目的に、2種類の酵素を結晶内部に固定化した複合結晶の作成を試みた。本年度は、加水分解酵素であるリパーゼとアルコールの酸化を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼのN末端に結晶への内包を促進させるH1ヘリックスを融合した酵素を昆虫細胞で多角体タンパク質と共発現することにより、酵素を内包した結晶を作成した。それぞれの結晶を用いて、加水分解反応とアルコールの酸化反応を行なったところ、それぞれの反応が結晶内部で進行したことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、カスケード反応を進めるための結晶内部の分子設計とアミノ酸置換による金属結合部位の合成を達成し、昆虫細胞を用いて結晶を作成した。さらに、カスケード反応のための酵素固定化もおこなっており、カスケード反応を行う準備は整っている。したがって、おおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、作成した多角体変異体結晶内部への異種金属錯体の固定化方法を確立する。水素化反応、鈴木カップリング反応を触媒するIrCp*、Pd(allyl)錯体を固定化する。多角体変異体、複合化する順番や反応等量、反応溶媒などのスクリーニングをし、固定化法の最適な反応条件を検討する。各金属の固定化量を既設の誘導プラズマ質量分析法(ICP-MS)により決定し、SEM-EDXにより各金属錯体の取り込み分布を評価する。結晶内の金属錯体の構造は、SPring-8のX線波長可変測定を行い、各金属の異常分散強度の差を利用した解析手法により、Ir、Pd錯体の結合サイトと配位構造を明らかにする。また、リパーゼとアルコールデヒドロゲナーゼを用いたカスケード反応では、作成したハイブリッド結晶を用いてカスケード反応を検討し、アミノ酸欠損や置換によりその反応性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、変異体の合成のため、プラスミドやウイルス合成、少量での結晶合成が多く、消耗品にかかる費用が少なかった。次年度は、より消耗品が必要になるため、次年度に回すことになった。繰り越した研究費を有効に活用し、多角体変異体作成と酵素内包結晶のための消耗品に充てる。特に、細胞培養試薬や器具などや結晶構造解析のためのループを大量に合成する。また、構造解析のためのSPring8出張のための旅費に使用する。
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