研究課題/領域番号 |
18K05141
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
柘植 清志 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (60280583)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 混晶化 / 発光 / ドーピング / エネルギー移動 |
研究実績の概要 |
本研究は、混晶化を利用して新規発光性を持つ銅及び銀発光性錯体の合成と新規発光サイトの創出を目的としている。 銅錯体について、昨年度に引き続きビス(4-ピリジル)エタン(bpa)を架橋配位子とする臭化物配位高分子をホスト構造とした研究を行った。昨年度、ピペラジン(pip)を導入した混晶化により、強発光性の化合物が得られることを明らかにした。磨砕時の変化と比較することにより、この強発光性が欠陥サイトによる可能性を見出したため、本年はpipと同程度のサイズの単座配位子としてピペリジン(pipe)を用い、意図的に欠陥サイトの導入を試みた。昨年度と同様の合成法を用いることにより、pipeを用いても発光性の結晶を得ることができた。この混晶は、pipを用いて合成した混晶と同じ発光帯を示し、同時に量子収率も1となった。発光寿命の検討により、pipとpipeを用いて得られた混晶の物性は共通しており、導入された欠陥サイトが強発光性の原因であると考えられる。また、混晶中のpipeの分析も行い、吸光光度法によりpipeの検出が可能であることも明らかにできた。 昨年度、銀錯体については、ピラジン(pyz)およびアミノピラジン(ampyz)を導入した混晶がpipとの混晶化により合成可能であることを示した。同時に配位子を大過剰に用いることにより、ampyzのみを架橋配位子とする配位高分子が合成できる事も明らかになった。単一錯体との比較により混晶の挙動が明確になるため、本年度は単一錯体の合成を中心に検討した。その結果、ampyz, pyzに加え、メチルピラジンおよびジメチルピラジンを大過剰に用いる事で、臭化物錯体が合成できる事が明らかになった。これらの錯体は、ピラジン系配位子を持つ発光性銀錯体の最初の例である。また、どの化合物も発光量子収率が0.6以上と強発光性を示すことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1)非発光性ホスト構造への発光性サイトの導入による新規発光サイトの創出、2)発光性ホスト構造への非発光性サイトの導入による発光性の制御、を行い、これらを利用して発光性サイト間の協同効果による刺激応答性の創出を目指している。 本年度は、銅錯体については昨年度に引き続きbpaをホスト化合物とした混晶の研究を行った。昨年度のbpa-pip混晶の研究により、異形混晶化が可能であることが明らかとなっているが、今年度は単座配位子のpipeとの混晶化を試みこれも導入できることが明らかになった。これまでは架橋配位子のみを導入してきたが、単座配位子でも導入可能であることを明らかにできたため、混晶化の可能性を大きく広げる結果といえる。また、吸光光度法により簡便に第二級アミン配位子を検出する方法を確立することができた。ドーパントの定量は物性解析に対して非常に重要な知見を与えるため、これも研究推進のための大きな成果となる。pipおよびpipe導入により、非発光性サイトの導入が、欠陥サイトの導入に繋がる物であることと、欠陥サイトが強発光性サイトとして機能する可能性が示された。通常欠陥サイトはクエンチサイトとみなされているが、今回の成果は結晶構造を乱すことなく導入された欠陥サイトが強発光性サイトとなるという新しい知見を示している。 銀錯体については、本年度は主に新規の配位高分子の合成を行った。これまで、銀錯体については単一錯体の合成法が確立できず、その発光性の検討も出来ていなかったが、配位子を大過剰に用いることにより再現性良く単一錯体の合成がpyz系配位子で可能であることが示せた。これにより、pip以外をホスト錯体とする混晶の合成が可能になる。また、単一錯体は強発光性であり、新規銀ユニットが発光サイトとして有用な物となる可能性を示している点からも本研究の推進にとって重要な成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、2018年度、2019年度の成果を踏まえ、発光性及び非発光性ホスト配位高分子を利用した混晶合成による新規発光ユニットの創出とその物性解析を行う。 発光性ホスト構造への非発光性サイトの導入による発光性の制御としては、引き続き強発光性を示した銅―bpa/pip系、銅―bpa/pipe系に関する研究を行う。これまで臭化物錯体を研究してきたが、ヨウ化物、塩化物錯体も合成し、強発光性発現のメカニズムを明らかにする。また、pip, pipe以外の非発光性架橋配位子として4,4’-ビピペリジン(bipip)、エチレンジアミンなどの導入も行う。これらの非発光性ドーパントの導入量が発光性に与える影響を検討し、欠陥サイトの影響のみならず、鎖長変化が発光性に与える影響を明らかにする。 非発光性ホスト構造への発光性サイトの導入による新規発光サイトの創出としては、引き続き銀配位高分子に関する研究を行う。また、比較のために単一錯体の合成についてもさらに検討を進める。2019年度の研究により、銀単一錯体の発光は、銅錯体のような電荷移動遷移に対応する励起状態と配位子内遷移に対応する励起状態のエネルギーが近く、この競合により複雑な温度変化を示す可能性が示されている。pip―pyz系配位子の組合せについて、単一錯体との比較も含め、詳細な検討を行う。また、銅―bpa系でサイズの異なる配位子導入が可能であったことを受け、異形混晶化による新規発光サイトの創出を行う。具体的には、pipより大きいbipipを架橋配位子とするAg-bipip配位高分子をホスト構造とし、ここにpyz系配位子の導入を行う。さらに、ピリジンなど通常分子性錯体を構築する配位子をドープした化合物の合成も行い、新規発光サイトを創出する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定した国内学会に参加しなかったため、その旅費分を次年度に繰り越す事となった。 2020年度も学会中止があるため、物品費として使用し、効率よく研究を進展させる。
|