研究課題/領域番号 |
18K05147
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
水田 勉 広島大学, 理学研究科, 教授 (70221603)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属クラスター / 銀クラスター / 末端アルキン / 環化反応 |
研究実績の概要 |
金属ナノ粒子は、高活性金属触媒として注目されているが、錯体触媒のような原子レベルでの精密構造情報が少ない。一方、金属ナノ粒子のうち、配位子により特定の構造の金属粒子が安定化されたものは、特別に”金属ナノクラスター”と呼ばれる。このような”金属ナノクラスター”では、結晶構造解析が可能であり、結晶構造解析により原子レベルでの精密構造を明らかにできる。 本研究では、金属ナノクラスターの活性点の構造と反応性との関連を明らかにすることを目的とする。金属ナノクラスターは金を用いて広範に研究されているが、同族の銀のクラスターの例は、かなり少ない。そこで、金属としては銀を選び、保護配位子として多様な反応に関与する末端アルキンをとりあげ、1)アルキニル基が保護配位子となった金属ナノクラスターの合成と単結晶構造解析により、精緻な構造情報を得ること、2)アルキンの変換反応を金属ナノクラスター触媒で実現し、アルキンの金属粒子への配位形式と反応性の相関を解明する。 申請者は 、[Ag(C≡CR)]nの懸濁液にNaBH4を添加し、Ag(I)の一部をAg(0)に還元することで不溶性の[Ag(C≡CR)]nを瞬時に可溶化できるという画期的な手法を見出している。そこで、これを原料としてアルキニル銀ナノクラスター合成した。クラスターの構造を制御するために、ハロゲンイオンを核としたクラスターをターゲットとした。ハロゲンイオンは、通常はAgXとして沈殿してしまうが、NEt3とCH2Cl2を系中で徐々に反応させてCl-を発生させるという新しい手法を利用して、Ph3を立体的な保護配位子としたAg18Clクラスターを新たに合成した。さらにPPh3をリン2座配位子のPh2PCH2PPh2に置き換えると、溶液中における錯体の安定性が格段に向上することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たなクラスターの合成については、超原子効果と平面型錯体配位子を保護配位子とした手法において、新たなクラスターが低収率ながら得られることが結晶構造解析によって明らかとなった。今後合成法の確立を目指す。 クラスターの反応性に関しては、溶液中のクラスターの安定性が想定した以上に低く、当初予定したアジドとアルキンの環化反応が低収率となってしまった。しかしながら、溶液中のクラスターの安定化を図る方法の手掛かりが得られているので、当初の目標としていた研究の遂行には大きな支障はない。
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今後の研究の推進方策 |
銅と銀が1:3のユニットが、安定な平面状構造を取ることを見出したので、この大きなユニットを安定化ユニットとしてクラスターを保護させる。Ag13ユニットが4枚の安定化ユニットで取り囲まれたクラスターを構造解析できているので、反応条件を精査することで収率の向上を図り、新たな錯体保護ユニットとしての有用性を明らかにする。 クラスターの反応に関しては、反定化配位として用いているリン配位子を多座配位子化し、溶液中でも解離しにくい安定なクラスターへ改良する。得られたクラスターを用いて、環化反応の収率向上を目指す。クラスター上のアルキニルユニットと、添加した末端アルキンとの交換反応がかなり速い反応速度で進行することが見つかったので、クラスター表面における基質交換反応として非常に興味深い。アルキンの反応開発にとって重要な要素であるので、交換反応機構も含めて明らかにする。
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