研究課題/領域番号 |
18K05149
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
越山 友美 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (30467279)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 基質小胞 / 生体鉱物 / 結晶化 / モデル / リン酸カルシウム |
研究実績の概要 |
バイオミネラリゼーションにより作り出されるカルシウム塩、シリカや磁性酸化鉄などの生体鉱物の組成、結晶系、結晶サイズや形態は、骨や貝殻などの構造体の化学的・物理的性質や強度を決定する重要なファクターであり、生物学や生体材料工学の分野において生体鉱物の形成機構に関する研究が進められている。例えば、生体硬組織におけるリン酸カルシウムの一種であるヒドロキシアパタイト結晶の形成機構に関する研究では、いくつかの理論が提案されており、ヒドロキシアパタイトの結晶化は、基質小胞と呼ばれる脂質膜とタンパク質からなる数百nmの袋状の構造体の内部で進行すると考えられている。よって、基質小胞に存在するリン脂質やタンパク質が結晶の制御因子としてどのように機能しているのかを解明することが重要であるものの、基質小胞の直接観察は未だ困難である。そこで本研究では、赤血球の内容物を除去した脂質膜と細胞骨格からなる数マイクロの「ゴースト赤血球(gRBC)」を用いて基質小胞を再現し、リン酸カルシウムの結晶生成過程を光学顕微鏡による直接観察とIRスペクトル測定により追跡した。加えて、リン酸カルシウムの核形成・結晶成長に関与している蛋白質のアミノ酸配列の一部を抽出したペプチドフラグメントの合成にも取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
gRBCを基質小胞モデルとしたリン酸カルシウムの形成に関する基礎的な知見が得られた。具体的には、gRBC存在下、非存在下でのリン酸カルシウムの生成条件を検討するために、反応温度、反応時間、Ca2+イオン/リン酸イオン比、イオン濃度、および pH のパラメーターを変化させて反応させ、光学顕微鏡観察とATR FT-IRスペクトル測定を行った。光学顕微鏡観察から、gRBC非存在下では、反応直後から数マイクロのリン酸カルシウム結晶が析出したのに対し、gRBC存在下では、時間の経過とともにgRBC同士の凝集が見られたものの、顕微鏡で観察できるサイズのリン酸カルシウム結晶は析出しなかった。しかしながら、ATR FT-IRスペクトル測定より、gRBC存在下で反応させたサンプルにおいても、リン酸カルシウム由来のピークが観察されたことから、gRBC有無により結晶形成過程が異なることを見出した。加えて、リン酸カルシウム形成に関与しているいくつかの蛋白質のアミノ酸配列の一部を抽出したペプチドフラグメントの合成にも取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
今後は (1) リポソーム、および gRBCへのペプチドフラグメントを導入にした基質小胞モデルの作製と、(2) 基質小胞モデル内における結晶化過程の時空間追跡のための分光学的測定法の確立を推進する。(1)については、前年度合成したペプチドをリポソーム、および gRBC へ導入し、リン酸カルシウム形成の反応条件スクリーニング(反応温度、反応時間、Ca2+イオン/リン酸イオン比、イオン濃度、および pH)を実施する。これまでに得られているペプチド非存在下でのリン酸カルシウム形成の結果と比較してペプチドフラグメントの影響を明らかとする。また、分光学的手法による経時変化測定では、光学顕微鏡観察とATR FT-IRスペクトル測定に加えて、ラマンスペクトル測定、粉末X線回折測定とTEM測定を進め、基質小胞モデル内におけるより詳細な生体鉱物の核形成・結晶成長過程の解明に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた自動ペプチド合成を手動合成に変更したため。 次年度は、分光学的手法(ATR FT-IRスペクトル測定、ラマンスペクトル測定、粉末X線回折測定、TEM測定など)による経時変化測定が重要であり、それらの測定に必要な備品・消耗品等を購入し測定環境を充実させていく。
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