バイオミネラリゼーションにより作り出されるカルシウム塩、シリカや磁性酸化鉄などの生体鉱物の組成、結晶系、結晶サイズや形態は、骨や貝殻などの構造体の化学的・物理的性質や強度を決定する重要なファクターであり、生物学や生体材料工学の分野において生体鉱物の形成機構に関する研究が進められている。例えば、生体鉱物の一種であるヒドロキシアパタイト結晶の形成機構に関する研究では、基質小胞と呼ばれる脂質膜とタンパク質からなる数百nmの袋状の構造体の内部で進行すると考えられている。よって、基質小胞に存在するリン脂質やタンパク質が結晶の制御因子としてどのように機能しているのかを解明することが重要である。そこで本研究では、赤血球の内容物を除去した脂質膜と細胞骨格からなる数マイクロの「ゴースト赤血球(gRBC)」を用いて基質小胞を再現し、生体鉱物の結晶生成過程の解明を目指した。まず、ヒドロキシアパタイト、および磁性酸化鉄の核形成・結晶成長に関与している蛋白質のアミノ酸配列の一部を抽出したペプチドフラグメントを固相合成し、単離精製した。また、合成したペプチドフラグメントをgRBCへ化学修飾する方法を確立した。さらに、gRBC存在下でのヒドロキシアパタイトの結晶生成過程を光学顕微鏡による直接観察とIRスペクトル測定により追跡し、pHやカルシウム濃度に依存した結晶生成を確認した。
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