最終年度の取りまとめとして、特異なプロトン共役電子移動(PCET)を経由して光化学的な水素生成反応を促進する新規分子性光触媒系の創出と反応機構解析に取り組んだ。具体的には、電子貯蔵ビオローゲン誘導体部位を有する分子性光触媒について、その電子貯蔵部位の酸化還元特性を制御することで光水素生成反応の高効率化を達成し、その反応機構を詳細に解き明かすことにも成功した。電子貯蔵部位としてMV2+ユニットを分子内に有するPt(bpy)(MV2+)2は二段階の光化学過程に基づき二電子還元種を形成することが知られていた。一方、この際安定な分子内ラジカル対を形成することで水素生成に対する反応駆動力を失い、結果としてもう一段階の光化学過程を経て進行する三電子還元種の形成が水素生成反応に必要であることが見出されていた。そこで本研究では、より優れた還元能を持つdmMV2+ユニットを有するPt(bpy)(dmMV2+)2を合成し、その光水素生成触媒機能を評価した。その結果、興味深いことにPt(bpy)(dmMV2+)2はPt(bpy)(MV2+)2よりも高効率に光水素生成反応を駆動することを見出した。また光照射後の暗所下における反応挙動を詳細に解析し、Pt(bpy)(MV2+)2では進行しなかったPt(bpy)(dmMV2+)2の二電子還元種による熱的な水素生成が進行することを明らかにした。具体的には、この二電子還元種による熱的な水素生成と並行し光化学的に進行する三電子還元種による水素生成がほぼ同等の速度で進行することが明らかとなった。また、これらの議論の妥当性が反応中間種に対するDFT計算の結果からも支持された。以上、電子貯蔵ユニットの酸化還元電位の制御により、水素発生の鍵中間種であるPt-H(白金ヒドリド)種を与えるPCET反応の制御に成功するという興味深い研究成果が得られた。
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