研究実績の概要 |
イリジウムオキソ錯体は、水の酸化反応や一酸化炭素の酸化反応の触媒あるいはその前駆体として機能することから、学術的な興味のみならず、資源・エネルギー・環境などの社会問題とも深く関わり得る物質群として注目されている。本研究では、これまでに類例のない きわめて電子豊富なイリジウムオキソ種であるアニオン性Ir(I) オキソクラスター錯体 Na[{(cod)Ir}3(mu3-O)2](1; cod = 1,5-cyclooctadiene ) を創成し、X線解析により構造の詳細を明らかにするとともに、1の特異的な高い求核性に基づく新たな反応化学の開拓にとりくんでいる。[Ir(mu-OH)(cod)]2に対してNaN(SiMe3)2を反応させることにより、2つの3重架橋オキソ配位子を有するアニオン性3核Ir(I)オキソクラスター(1)がほぼ定量的に得られた。(1)はこれまで1例しか報告例のないIr(I)オキソ錯体であり、アニオン性化合物Ir(I)オキソ錯体としては初めての例である。(1)とM(PR3)Cl (M = Au, Ag; R = Me, Ph)とを反応させると、 2の3つのIr中心が形成する三角形の一辺に[M(PR3)]+フラグメントが結合した異種貴金属4核オキソクラスター[{Ir(cod)}3(mu3-O)2}M(PR3)] (2a, M = Au, R = Me; 2b, M = Au, R = Ph; 2c, M = Ag, R = Ph)が80%程度の収率で得られた。一方、(1)とAgClとの反応では、異種貴金属8核オキソクラスター[{Ir(cod)}3 (mu3-O)2}Ag(mu-Cl)]2 (3)がほぼ定量的に生成することも明らかにした。(1)、(2a)~(2c)、(3)はいずれも1HNMRおよびX線解析により構造の詳細を明らかにした。
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