研究課題
私たちは,銅イオンと簡単な構造の有機配位子(アセチルアセトンジオキシム)を混合すると,有機配位子は自発的な反応を起こして別の分子に変化し,さらにその生成物4つと銅イオン5つが自己集合して,メタラクラウン錯体と呼ばれる大きな金属錯体分子を形成することを発見した.本研究では,この新しい種類の錯体の生成機構およびその特性を解明し,また,どのような範囲の配位子でこのような化学反応や自己集合体形成が起こるのかを明らかにし,合わせて,中心に空孔がある錯体を選択的に合成あるいは単離することを試み,空孔を利用したイオンの取り込みおよびその選択性を明らかにし,触媒やセンサーとしての利用の基盤を築くことを目的とした.初年度では,主に「どのような範囲の配位子でこのような化学反応や自己集合体形成が起こるのかを明らかに」するために,異なる構造の有機配位子を用いて銅イオンと混合し,何が生成するかを調べた.有機配位子として両端にフェニル基をもつジオキシムを用いた場合には,自発的な反応によってジフェニルピラゾールが生成するとともに,別に生成したジオンと銅からなる錯体も生成することが明らかになった.また,有機配位子シクロヘキサンジオキシムと銅イオンとの混合物からは,有機配位子はやはり構造が変化し,銅イオン3つと有機配位子3つからなる金属錯体分子が生成した.このように,構造の異なる有機配位子でも新しい反応が起こることが明らかになりつつある.
2: おおむね順調に進展している
当初の目的で挙げた,本研究で明らかする点は,(1)ニトロソ基窒素の起源,(2)錯体の電気化学特性の解明・触媒能の探索,(3)空孔錯体の単離法の検討,(4)ホスト・ゲスト特性,(5)複合金属イオン錯体のスピン特性,そして(6)一般性,である.この中で初年度は(6)に関して,「自発的反応・自己集合」という現象が,新しい系について2つ見つかった.それぞれに新しい反応,新しいタイプの自己集合であり,私たちが見出した「自発的反応・自己集合」という現象が一般的な概念になりうることを予感させる.この点では想定以上に進展した.また,新しく見出された金属錯体の1つは,3角形に配列した銅イオンがはしご状に連続して並んた結晶を形成しているので,(5)に関連してスピン特性が非常に興味深い.一方で(1)から(4)までは基本的検討をしている段階で,大きな進展は今後を待つことになった.以上を総合して「概ね順調に進展している」という判断である.
研究実績の概要に記したように,有機配位子を変えるとかなりの確率で新しい反応が発見され,新しいタイプの金属錯体が得られることがわかった.したがって,さらに大きな進展が見込まれる(6)の「自発的反応・自己集合」の一般性についてより重点的に進めることを計画している.そのための新しい有機子のデザインを行った.その中で,水に対する溶解性の高い有機配位子を合成中である.銅イオンと混合したときの,この配位子の構造変化や形成される金属錯体の構造を明らかにする.水に対する溶解性の高い有機配位子を使用する目的は,生成した錯体も水によく溶けることが期待されるため,項目(1)から(5)までの検討も行いやすくなることが期待されるからである.この錯体を用いて,本研究の当初の目的を全体的に進展させる計画である.
購入備品のロータリーエバポレータ一式の予算756,000円を予定していたところ,660,755円で購入できたことが差額約9万5千円の主な理由である.差額分は,研究計画で特に成果の上がりつつある「一般性」の証明のため,より多くの有機配位子を試みる予定であり,その費用に充てる.
Invited Seminars(1) 3月19日, 2019, Indian Institute of Chemical Technology, Hyderabad, India. (2) 3月18日, 2019, Calcutta University, Kolkata, India. (3) 3月 18日, 2019, Jadavpur University, Kolkata, India.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Solar Energy
巻: 181 ページ: 243-250
10.1016/j.solener.2019.01.097
https://www.chem.cst.nihon-u.ac.jp/~otsuki/otsuki.html