研究実績の概要 |
私たちは以前,銅イオンと簡単な構造の有機配位子(アセチルアセトンジオキシム)を混合すると,有機配位子は自発的な反応を起こして別の分子に変化し,さらにその生成物4つと銅イオン5つが自己集合して,メタラクラウン錯体と呼ばれる大きな金属錯体分子を形成することを発見した.本研究の主な実績は,この新しい種類の錯体形成反応に一般性があるのかを明らかにしたことである.有機配位子として両端にフェニル基をもつジオキシムを用いた場合には,自発的な反応によってジフェニルピラゾールが生成するとともに,別に生成したジオンと銅からなる錯体も生成することが明らかになった.また,有機配位子シクロヘキサンジオキシムと硝酸銅との混合物からは,有機配位子はやはり構造が変化し,銅イオン3つと有機配位子3つからなる金属錯体分子が生成した.さらに,シクロペンタンジオキシムと硝酸銅の場合は,銅イオン2つと有機配位子3つからなる錯体が生成した.ただし,そのうち2つの間には共有結合が形成していた.さらに,アセチルアセトンジオキシムと塩化銅からは,銅が還元されて1価銅となり,D6R構造という珍しい連続的な構造を形成することが明らかとなった.これらの有機配位子は全て簡単な構造の1,3-ジオキシムであり,簡単な構造から室温での反応と自己集合により複雑な構造が自発的に組み上がる化学の豊かさを示す結果が続々と得られた.これまで全て異なるパターンの多核金属錯体が生成しており,さらに新しい構造を発見できる可能性が高い.一方でこれらの新しい構造が持つ機能の探索は今後の新たな研究課題である.
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