研究実績の概要 |
本研究は、イオン性超分子金属錯体の構造制御や構造変換、そして構造にとどまらず多彩な物性変換を目指すものである。カチオン性金属錯体、アニオン性金属錯体それぞれに水素結合ドナーまたはアクセプター部位を積極的に導入し、preorganizeすることによって、多彩な水素結合ネットワーク構造を構築する。これまでに、水素結合ドナーサイトをもつパラジウム(II)四核錯体カチオンと水素結合アクセプターサイトをもつ金(II)パラジウム(II)四核錯体アニオンからなる低密度イオン性結晶を合成に成功するとともに、水素結合アクセプター素子として有機アニオンが有効であることを明らかにした。 令和四年度は、水素結合アクセプターサイトをもつ素子として、カルボキシ基を2つ以上もつ有機アニオンを用いて低密度イオン性固体を構築することを目指した。ビグアニド部位を有するコバルト(III)四核錯体とテレフタル酸を反応させると、予想された水素結合ネットワーク構造ではなく、テレフタル酸からカルボキシ基が引き抜かれて生成した炭酸イオンがアニオンとして取り込まれ、コバルト錯体と炭酸イオンを1:3の比で含む構造が形成されていた。また、有機アニオンとしてアゾベンゼン-4,4'-ジカルボン酸や1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼンを用いた場合にも同様の炭酸イオンを含む構造が形成された。これは、コバルト錯体の水素結合部位が異常に炭酸イオンとの親和性が高く、有機分子から無理やり炭酸部分を引き抜いたためと考えている。 この他に、アニオン性マンガン四核錯体が、アルキルアンモニウムカチオンの種類に応じて十三核錯体へと構造変換することも明らかにした。これはアニオン性錯体とアンモニウムカチオンとの水素結合によって制御可能であることもわかった。
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