研究実績の概要 |
一般的に、Pt(II)錯体は四配位平面正方型を、Pt(IV)錯体は六配位八面体型の構造を好む。Pt(II)/Pt(IV)の酸化還元には大きな構造変化を伴い、非常に大きなエネルギーを必要とすることから、通常の白金錯体は酸化還元不活性である。ところが、環状三座配位子である1,4,7ートリアザシクロノナン(tacn)を有する白金錯体は、tacnの可逆な構造変化が伴うことによって、Pt(II)/Pt(IV)の可逆な酸化還元が可能である。本研究課題ではPt(tacn)錯体のPt(II)/Pt(IV)酸化還元対を活用した新規還元反応を開発することを目的としている。本年度は、[PtX(tacn)(bpy)]3+ (X = Cl, Br, I, bpy = 2,2'-ビピリジン)を合成、その酸化還元挙動を詳細に検討し、配位子Xが酸化還元挙動に与える影響について明らかにした。その結果、Pt(IV)からPt(II)への二電子還元過程と、Pt(II)からPt(IV)への二電子酸化過程が異なる経路で進行することを解明した。さらに、[PtCl(tacn)(bpy)]3+ を亜鉛で還元することにより、平面正方型のPt(II)錯体である[Pt(tacn)(bpy)](PF6)2を良好な収率で単離することに成功した。これまでは[PtCl(tacn)(bpy)]3+ を電気化学的に還元した後に、再結晶化することによって数粒の[Pt(tacn)(bpy)](PF6)2を得るのが精一杯であったが、新たな合成方法を確立したことにより、還元体[Pt(tacn)(bpy)]2+を実用的な収率で単離できた。還元反応の鍵となるPt(II)錯体の性質と反応性を解明することにより、触媒的な還元反応の研究に大きな進展がもたらされると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度、合成単離に成功したPt(II)錯体[Pt(tacn)(bpy)]2+の反応性について詳細に検討する。特に電子移動反応や酸化的付加反応が期待出来る有機ハロゲン化物(R-X, X = Cl, Br, I、R = アルキル、アリール)や水素ガス、ハロゲン単体との反応について検討を行う予定である。これらの化合物は形式的な酸化的付加反応が可能であり、Pt(IV)錯体である[PtR(tacn)(bpy)]3+などの生成が期待出来る。この[PtR(tacn)(bpy)]3+を再還元することによって、ラジカル種の生成が可能である。これを活性種とする電気化学的な触媒反応を開発する。また、一般的に光増感剤として用いられる[Ru(bpy)]2+の酸化還元電位において、[PtCl(tacn)(bpy)]3+を十分に還元可能である。このことを利用して、光化学的な有機基質の活性化を行う予定である。
|