研究課題/領域番号 |
18K05159
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
松原 康郎 神奈川大学, 工学部, 助教 (90616666)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電気化学 / CO2固定 / 触媒 / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
近年、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)を固定化すると同時に、原因である化石資源に代わる化学資源を獲得するための方法として、CO2の還元反応が注目を集めている。CO2を電気化学的に一酸化炭素(CO)に還元する反応は、COが、既存の化成品の生産ラインの枠組み内で使用できることから、要素技術として注目されている。但し、この反応の実用化には優れた触媒の存在が不可欠であり、そのため、性能が高い触媒の開発研究が盛んである。
一般的に、触媒の性能は、触媒一分子が一秒間に生成するCO分子の個数(反応速度)と、この反応速度を維持するために必要な過電圧(印加電圧と平衡電位との差)によって評価することができる。反応速度の評価はある程度、理論的枠組みが存在する。一方で、過電圧の評価には平衡電位が既知である必要があるが、その算出法については研究者間のコンセンサスがとれておらず、現状では算出の基準となる標準電極電位も整備されていないという問題が残されている。正確な平衡電位の算出はCO2還元反応の触媒性能の評価に不可欠である。
これに対し研究代表者らは、イオン液体の構成分子であるイミダゾリウムが既存のCO2還元錯体触媒に対して有用な添加剤(助触媒)として働くことを発見し、そのCO2活性化手法としての有用性を検討してきた。2019年度は、前年度に単離合成に成功した新規マンガン錯体触媒の電気化学的な反応性について、特にCO2還元特性に重点を置き検討した。その結果、実用上重要な、大面積の電極を用いた電気分解での電流密度と電解電位との相関を明らかにすることができた。また、平衡電位を算出するための理論的枠組み(2018年度構築)の下で、N,N-ジメチルアセトアミド中での標準電極電位を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題全体で計画していることは、(1) 実験量を基にした信頼性の高い反応速度-過電圧相関解析法の構築、(2) マンガン(I)錯体触媒の電子構造・立体構造(置換基効果)と触媒の性能(反応速度と過電圧)との固有の相関ラインの探索、(3) 世界最高の反応速度-低過電圧で駆動するCO2 還元Mn 錯体触媒の開発の3点である。
2019年度は、次の2つの観点で研究を実施した: (1) 相関解析に基づく最高性能触媒の開発と、(2) 標準電極電位の整備である。前者の検討では、錯体の第2配位圏に配置したイミダゾリウムが触媒作用にもたらす効果について、その温度効果を検証することにより、複数の水分子がクラスターを形成することが重要であることを明らかにできた。また、後者の検討では、電気化学研究で近年よく用いられる有機溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミドと水との混合溶媒中での電極電位を測定することにも成功した。現在、これらの結果を総括した論文が公開もしくは審査中である。これらのことから、概して全体を評価すると進捗状況としては「おおむね順調」であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度(最終年度)は、相関解析に基づく最高性能触媒の開発という観点から研究に取り組む。前年度の研究では、マンガン(I)ビピリジン錯体の第二配位圏内のイミダゾリウムが引き起こす水分子のクラスター構造化が、エンタルピー的には反応を促進する効果をもたらしている一方、それを打ち消すほどに大きくエントロピー項で不利になっていることがわかった。この大きさは相当大きく、反応速度ベースで比べた時に、イミダゾリウムを持たない母錯体よりも反応速度が低くなるほどである。既報の理論研究と照らし合わせると、この大きなエントロピーの減少は、イミダゾリウム配位子の構造的自由度に由来していると考えている。そこで、今年度はあらかじめイミダゾリウムの位置を固定化した配位子を用いた場合の触媒性能を理論計算により評価する。有用な構造については実際に合成し、触媒反応の速度を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していた今年度分の研究において、合成に必要な試薬が研究の進捗に伴い必要ではないことがわかったため。同時に、次年度の研究において必要な器具も新たにわかり、その費用として「次年度使用額」分から捻出することを予定している。
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