研究課題/領域番号 |
18K05160
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松尾 司 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90312800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 典型元素 / 主要族元素 / 不飽和化合物 / かご型化合物 / シクロブタジエン / プリズマン / テトリレン / テトラノン |
研究実績の概要 |
本研究では、高度に分極した「典型元素不飽和化合物」を合成し、小分子の活性化などの反応性の開拓を通して、典型元素化合物に関する先駆的な研究を格段に発展させることを目的とする。独自に開発した「縮環型立体保護基(Rind基)」を駆使して、ホウ素やアルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛などを含む新しい不飽和化合物を合成する。それらの分子構造や化学結合について解明するとともに、高度に分極した電子構造に由来する特異な反応性を探究し、元素科学における根源的な問い『典型元素は、遷移元素を凌駕するような反応性を示すであろうか?』にアプローチすることを目的とする。 令和元年度は、平成30年度に引き続き、種々のかさ高さのRind基(EMind基、Eind基、MPind基)を有する「ハロスタンニレン」の還元反応について調査した。かさ高いEind基を有するブロモスタンニレンの還元反応では、スズの四員環化合物である「テトラスタンナシクロブタジエン」が生成するのに対し、かさの小さなEMind基を有するブロモスタンニレンの還元反応では、スズのかご型化合物である「ヘキサスタンナプリズマン」が生成することを突き止めた。ヘキサスタンナプリズマンは室温で安定であり、捻れた三角柱型の分子構造を単結晶X線構造解析により決定した。また、「テトラゲルマシクロブタジエン」と「テトラスタンナシクロブタジエン」の酸化反応について調査を行った。テトラスタンナシクロブタジエンと酸素ガスとの反応では、アダマンタン骨格を有する「スタンナセスキオキサン」が生成することを見いだし、かご型の分子構造を単結晶X線構造解析により決定した。 また、令和元年度は、Rind基を有する14族元素二価化学種「テトリレン」と種々のカルコゲンとの反応性について調査した。高度に分極した14族元素ー16族元素結合を有する「テトラノン」の合成条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇な14族元素不飽和化合物である「テトラスタンナシクロブタジエン」の合成法を確立するとともに、スズのかご型化合物である「ヘキサスタンナプリズマン」を初めて安定に合成・単離することに成功した。異性体である「ヘキサスタンナベンゼン」の合成についても調査中である。また、「テトラスタンナシクロブタジエン」の酸化反応により「スタンナセスキオキサン」に変換するなど反応性の開拓を行ったことから、「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。 高周期元素不飽和四員環化合物である「重いシクロブタジエン」の反応性について調査するだけでなく、反応活性なハロゲンが置換したケイ素不飽和三員環化合物である「ブロモシクロトリシレン」の合成にも成功しており、今後の研究に期待が持たれる。 「テトリレン」の酸化反応では、反応に用いる酸化剤の選択や生成する「テトラノン」の単離操作の工夫などの課題が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
高周期元素不飽和四員環化合物である「テトラゲルマシクロブタジエン」や「テトラスタンナシクロブタジエン」の反応性の開拓をさらに進めるとともに、ケイ素不飽和三員環化合物である「ブロモシクロトリシレン」の合成法を確立することで、ケイ素、ゲルマニウム、スズの不飽和小員環化合物の化学を系統的に発展させる方針である。「ハロプルンビレン」の合成法を確立し、新たに鉛の小員環化合物の化学にも挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が当初計画どおりに進んだところと進まないところがあり、次年度使用額が生じました。原材料の安いスズ化合物に関する実験結果が多く得られており、構造解析や理論計算に多くの研究時間を費やしました。次年度は原材料の高いゲルマニウム化合物の合成研究をさらに加速させる予定であり、物品費、旅費、その他に使用する計画です。
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